<対談>AIは私たちの生活をどのように変える?

2020年に向けて今、最も注目される最先端技術、人工知能-AI。
プリファード・ネットワークス(PFN)取締役最高執行責任者の長谷川順一さんに、コモンズ投信のファンド「ザ・2020ビジョン」ファンドマネージャーの糸島孝俊がAIの未来について伺いました。
(敬称略)
糸島    プリファード・ネットワークスさんは、ディープラーニングの分野におおけるフロントランナーです。まず、御社の強みからお話しいただけますでしょうか。

長谷川   ディープラーニングのビジネス分野が、どのような業界地図になっているのかを簡単に考えてみましょう。4象限で現す場合、まず縦軸は、上が「クラウド」、下が「デバイス」です。そして横軸は、左が「コンシューマー」で、右が「インダストリアル」です。こうして作られた4象限のうち、欧米は「クラウド」であり、「コンシューマー」ターゲットにしています。つまり4象限のうち左上を狙っています。これに対して弊社のAIは、「デバイス」であり「インダストリアル」がターゲットです。したがって欧米のAIとは真逆の、右下を狙っています。そして、右下はどちらかというと日本が強みを発揮する分野で、トヨタ自動車やファナックがその代表例です。

糸島    具体的に、どのような用途を目指しているのですか。AIというと、車の自動運転などが、身近なところではないかと思っているのですが。

長谷川   来年から自動運転が実用化されると言われていますが、日本のあらゆる道路で自動運転が可能になるのは、まだ先の話です。恐らく高速道路からスタートするのでしょうね。なぜなら交通参加者が少ないし、信号や交差点もないので自動運転に適応しやすいのです。あと、人口減少社会で、働き手がどんどん減っている運送業は、自動運転に対してとても高い関心を寄せて下さっています。自動運転が今後、どのように広がっていくのかについては、いろいろな意見もあると思いますが、恐らく、一般道路よりは高速道路、大都市よりは地方都市という形で実証実験が行われ、そこで集めたデータを分析。試行錯誤を繰り返して徐々に完成度を高めていく、という方法が取られるのだと思います。

糸島    AIは、医療分野にも用いられます。具体的に、どのような使われ方を想定しているのですか。

長谷川   国立がん研究センターや産業技術総合研究所と組んでスタートさせた開発プロジェクトでは、国立がん研究センターが持っている、がんに関する膨大な診断データとゲノムデータを組み合わせることによって、過去、こういう遺伝子を持った人は、こういうがんに罹ったという学習をさせていきます。このディープラーニングでは、大量の情報分析によって、たった1滴の血液からがんであることを判明できる確率を99%以上高めると同時に、どのがんなのかということまで分かるようになります。

糸島    このプロジェクトによる実証実験が、本格的に実用化されれば、ピンポイントで薬を出したり、未病にも役立てたりできそうです。

長谷川   そうですね。現在はどの抗がん剤がどの人に効くか分からないため、効果を見ながら抗がん剤を次から次へ試してきたところがあります。そのうちに体力が弱ってします。これからは、もっとピンポイントで、このDNAを持っている人でこのがんに効く薬はこれ、というところまで遺伝子解析で分かるようになるはずです。そうすれば、医療費の無駄も、かなりの程度まで削減できるでしょう。

糸島    そうなると、上場されている製薬会社、医療機器メーカーなどは、生き残れるところ、消えてしまうところに分かれてきそうです。どういう会社が生き残れるのでしょうか。

長谷川   これは医療業界に限らないのですが、やはり生き残る企業は、優良なデータが集まるところです。たとえばトヨタ自動車は、世界中を走っているトヨタ製の自動車から、さまざまなデータを集められます。ファナックも世界中の工場で工作機械を収めていますから、そこからさまざまな製造作業のデータが取得できます。こうしたデータをAIとつなげることによって、新しい付加価値が生まれます。逆の見方をすれば、データを集められない企業は、どんどん厳しくなります。たとえば自動車保険を例に挙げると、トヨタ自動車はさまざまなドライバーの運転に関するデータが取れるので、どういう人が事故を起こしやすいかがデータから分かります。ということは、人の運転技術やどういったところを運転しているかなどの様々なデータから、自動車保険の保険料が決められます。でも、一方で損害保険会社は、ドライバーの運転に関する情報なんて、せいぜい運転手の年齢と年間の走行距離だけしか持っていません。こうなると、自動車保険分野での勝敗は、簡単に決してしまいます。これからの自動車保険業界は、むしろ自動車メーカーが中心になる可能性を秘めているのです。

糸島    最近、AIが普及することによって、今は人間の手を介して行われている仕事の大半が、AIに置き換えられると言われています。実際にはどうなのでしょうか。

長谷川   逆に、無くならない仕事は何かということを考えると、謝る仕事な
どは、無くならない仕事の最たるものだと思います。コミュニケーションという点では、まだAIにはできない部分がたくさんあります。小学校から大学まで、一所懸命に勉強してものごとを丸暗記して来たような仕事をしている人は、かなり危険でしょう。

糸島    最後に、AIが20歳、30歳になった時の未来図はどうなっているのでしょうか。

長谷川   こればかりは、分からないでしょうね。100年前飛行機がお客様を乗せて長距離飛べる交通手段になるとは考えもつかなかったでしょう。でも今ではできてる。ディープラーニングの技術は今までの技術開発のスピードと比べるととてつもない速さで進化しています。昨日できないことが今日にはできるくらいのスピードで世界中の研究者が論文を出しています。当然、20年後には知能レベルも上がっているはずです。人間と対等に会話できるロボットは、いずれ確実に誕生します。シンギュラリティ(※)については、AIは電気が必要なので、電気を切ってしまえば大丈夫。人間を大きく超えて敵対するようなことにはならないと考えています。
また、金融におけるAIについては、これはずっと以前から「自動取引」において機械学習が活用されています。ただ、私たちはモノを生まないこと、社会貢献に繋がらないことにAIを利用したくありません。軍事についても同じでポリシーとしてやりません。やってはいけない領域と認識しています。金融に関しては、例えば不正融資やマネーロンダリング、カードの不正利用などの発見などの相談を受けていて、こういったことは我々が金融において協力できるところだと思っています。
※シンギュラリティ(技術的特異点)とは人工知能が人間の能力を超える時点のこと。

糸島    ありがとうござました。

「プリファード・ネットワークス」や「ディープラーニング」について
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