【開催レポート】住宅遺産のための作戦会議 第2弾! ~理想の家を味わう 京都編~

こんにちは。
一般社団法人住宅遺産トラストの応援リーダーを務める、運用部 奥です。

10月28日に、第9回社会起業家フォーラム登壇者第13回コモンズSEEDCap最終候補者でもある木下壽子さんが理事を務める、一般社団法人 住宅遺産トラストとイベントの第2弾を京都で開催しました。前回の東京のイベントにも参加していただいた方が何人もお見えになり、関心の高さを再確認しました。

最初に伺ったのは旧喜多邸。 
京都帝大教授を務めた喜多源逸氏の自宅で、同僚だった藤井厚二氏の設計です。 到着すると環境の良さに気付きました。実はナショナル・トラスト所有の駒井家住宅を含む貴重な住宅が3軒並列していて、旧喜多邸はその中央に位置していました。3軒とも存在することに一層の価値があるということで、何とか残せないかと活動し、幸いにも今のオーナーのもとにバトンを繋ぐことができたそうです。

住宅の状態は良く、約百年前に出来たとは思えぬほど室内がきれいでした。深みを帯びた木の色と仄暗い明りは非常に相性が良く、落ち着いた海外ビンテージの調度品も“同化”して全く調和を崩しません。そんな居間から庭の苔を眺めていると、さながら旅館に来たかのよう。
そして何しろ天井が高いこと高いこと。椅子に座る方と座敷に上がる方の目線を合わせるため、座敷が床から約30cm高い位置にあり、天井の高さを統一する必要があったようです。また、二階から送り火の「大」の字が良く見えるようにする意味もあったのかもしれません。
ちなみに、通常は平屋を良しとする藤井氏ですが、大文字を眺めるという目的のためだけに喜多邸は二階建てにしたそうです。 



旧喜多邸は日米のご夫妻がオーナーから借りて、住居兼ギャラリーとして活用なさっています。オーナーもご夫妻も、次の継承者が現れるまで“お預かりしているだけ”。借り手の男性ご自身で一年かけて木材一つ一つに蜜蝋を塗り込み、庭師に教わりながらお庭も日々手入れなさっているそうです。次世代への継承にかける並々ならぬ情熱に胸が熱くなりました。
宗旨替えせずとも大丈夫だとは思っていなかった賃貸派の私が、どこかの名住宅の歴史の中でささやかな貢献をすることを決意するのに時間はかかりませんでした。
旧喜多邸の継承先となるステディなオーナーは、賃貸派の論理を超越までしてむしろ私になるのかもしれません。

(世界に3脚しかない貴重な椅子の素晴らしさを情熱的に力説)

(「法事みたいだね」という一言で一同大笑い)

見学後に京都信用金庫QUESTIONに移動し、住宅遺産の現状や課題について伺いました。登録有形文化財はハードルを下げて間口が広がったものの、登録解除したうえで解体するケースが増えてきているそうです。一方で、良くなっている面もあるようです。かつてなら買い手が現れても「古くて額面価値のないものに貸し出しはできない」と金融機関に断られ、座礁するケースがあったのですが、住宅遺産の価値が理解され京都信用金庫の「活かそう京町家」のような専用ローンが作られるようになりました。もし賃貸なら、収益還元という考えのもと条件も緩くなるようです。

(左から 住宅遺産トラスト事務局長 吉見千晶さん 理事 木下壽子さん)

建築の世界では、お金の話はさておき建物の価値ばかり議論しがちだそうですが、その話抜きでは残していけないということで、住宅遺産トラストは、土地と建物を分けて考え、土地は何らかのプール資金を活用して公益的な団体がコモンズとして長期的に保有し、建物は民間の団体などが活用することで維持管理費などをカバーしていく仕組みを構想中です。建築だけでなく金融の専門家の協力も必要です。前回は方針を模索している段階でしたが、方向感が固まり、持続的な住宅保存実現への期待感がわきました。次々と舞い込んでくるご相談に対応できる体制の構築に期待します。

参加者からは、「休眠預金などの余ったお金をプールして、賃貸などで年間3%でなら上手く行くのではないか」「賛同者を集めるにはこのイベントのように住宅遺産を公開し、ロジックではない価値の体験が必要」との声が聞かれました。 


午後になって移動した聴竹居は、合戦場で有名な天王山の麓を少し登ったところにありました。修復されたばかりで外壁はまっ更。外観は洋風モダンですが、中はまさしく和風でした。 



喜多邸を設計した建築家である藤井厚二の自邸のため、一切の制約を受けず理想が表現されていました。ここも旧喜多邸同様天井が高く、部屋が広く感じました。採光も良好で、胸のすく空間です。柱は細く、桂川と山を望む借景にノイズが入らないようにしています。平屋だから可能な細さです。天井には開閉可能な換気口があり、床には地中につながる通風孔があります。これで7℃は変わるそうで、ネットゼロエネルギー住宅の走りではないでしょうか。またダストシュートまであり、衛生にも気を配っています。海外視察中のスペイン風邪に影響を受けたものと考えられます。素人目にも、環境工学の最先端を走っていた住宅だと見受けられました。生活空間の本屋の隣にある私的空間である閑室では、天井は竹皮の網代張り、使う木はマツであろうと全てまっすぐなものだけ。本屋のねじの向き、階段の石の形など、こだわりにこだわり抜いていることが伺えました。宮大工の酒徳金之助氏もこれに応えるのはさぞや大変だった事でしょう。芸術的美と機能美、そして深遠な計算の知的な美を前に思わず唸ってしまいました。

こうしたことを説明して下さったのは竹中工務店勤務かつ聴竹居倶楽部の松隈章さん。聴竹居の価値を見出し、藤井氏が6年間勤務した竹中工務店が継承するまでなんとご自身で物件を借りることで潰されないようにした方です。松隈さんは説明からも聴竹居への愛が溢れていて、聴竹居の見学が17回目だというかなりコアな参加者の方もいらしていたこともあいまって、志を同じくする方が一つに集まってともに楽しむこの時間が夢のようでフワフワした感覚でいました。 


イベント終了後に参加者アンケートを募ると、「旧喜多邸を磨き上げたご夫婦の情熱、聴竹居の説明をしていただ方の使命感」が印象に残った、(QUESTIONの)「会場には京都に貢献しようという意気を感じるわくわく感がありました」、「遺すべき建築のおかれている状況を知ることができ、何とか後世に遺す道がないか自分なりに考えてみたいと思いました」、(聴竹居で)「藤井厚二氏のスケールの大きさを知ることができた」(それぞれ原文ママ)といったお返事がありました。私もそうだと思います。コモンズSEEDCapでみなさんが関心を持って下さった住宅遺産トラストと、このコラボイベントの開催を通して、お仲間・社員・京都信用金庫様のような地域金融機関がリアルなつながりを作る場を実現できて良かったです。

いまだに思い出してはうっとりして、すっかり住宅遺産の虜になってしまった私は、まだ継承を待っている住宅への好奇心と、新たなモチベーションを得ました。あの家を買えるぐらい頑張ろう、と。 

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