<パネルディスカッション>モノづくり企業の30年後に必要なものとは

<パネルディスカッション>
モノづくり企業の30年後に必要なものとは


 コモンズ    東レといえば、長い時間をかけて、炭素繊維をここまで成長させました。水処理膜も実用まで長い時間をかけましたが、ここまで長期で研究開発をやり続けられるのはなぜでしょう。

東レ    もちろん途中で中断した事業もあります。ただ、諦めないDNAが経営側にあるのと同時に、これは将来、社会にとって絶対に必要で、ビジネスとしてやる意味があることを見抜く目があったからでしょう。研究者や、その研究を見ていた経営陣は、たとえ自分たちの世代では花が開かなかったとしても、その間は他の事業でつなぎ、それでも諦めずに研究を続けるという覚悟があります。

コモンズ    日東電工は来年100周年を迎えます。その間、上手に進化を遂げていますが、どうやって領域を広げてきたのですか。

日東電工  うちは部材メーカーで、お客さまと常時、密接にコンタクトを取っています。お客さまのニーズを聞き、それを私たちが具体化していく。そういうコミュニケーションを増やしています。営業担当者が出入りするだけでなく、開発部隊も一緒に動くことで、顧客ニーズを汲み取るようにしており、それを繰り返すうちに、徐々に領域が広がっていったのだと思います。

コモンズ    東レも、たとえば炭素繊維がボーイング社の最新機体に用いられています。このようなトップ企業が今、何を求めているのかといった情報は、どうやって手にするのですか。

東レ    炭素繊維については長年、研究開発を続けていることが知られています。だから、ボーイング社にしても自動車メーカーにしても、炭素繊維で何かを作ってみようという時に、まずお声がけ下さる面はありますね。こうしてお付き合いができ、実際に採用していただくと、今度はお客様の方から、「こういうものはできないか」と相談を受けます。まずは信頼をいただくこと。そこからコミュニケーションを増やして、お客様と一緒にやっていく関係を築いていきます。

コモンズ    近年、スマートフォンの成長が鈍化しているようです。液晶ディスプレーに対するニーズも含め、今後の変化への対応を、どのように考えていますか。

日東電工  大きな変化が予想されます。液晶には液晶偏光フィルムが使われていますが、有機ELは液晶偏光フィルムこそ不要ですが、ディスプレーの表面に光が反射すると見えにくくなる特性があります。だから、有機ELに対応した偏光フィルムが必要になります。タッチパネルだって同じです。なので、常に新しい領域に入っていけるだけの研究開発は怠れません。私たちは、これを収益拡大のチャンスと捉えています。


コモンズ    10年先を見据えて経営に落とし込んでいくということですが、当初は成長すると思っていたのに、足元が厳しいとなった事業についてはどうするのですか。

東レ    3年間の中期経営計画でも、途中で事業ごとに見直しています。たとえば、2年前にスタートした研究開発があったとして、環境変化によって売上が成り立たない恐れが生じた場合、他の用途でカバーできるのかどうかを、事業ごとに精査しています。そのなかで、市場の成長性や、事業が置かれている環境がダメな場合は、縮小撤退を考えますが、一律の基準は設けていません。

日東電工  核酸医薬について、日東電工の海外グループのリソースで追いつかない部分で考えると、既存事業への投資が優先課題ですが、それだけで今後の成長が期待できないという状況に直面した場合は、M&Aも選択肢のひとつになるでしょう。今のところ、大規模なM&Aは行っていませんが、そこは保守的に考えながらも、一歩踏み出す必要性があるのではないかと考えています。

コモンズ    最後に、新しい社員に語るつもりで、20年後、30年後こうなっているという話をしていただけますか。

東レ    30年後、世の中の構造は変わるでしょう。自動運転の進展によって、自動車の生産台数は大きく落ちるでしょうし、ものづくりをやっているメーカーとしては、どう対応するべきか思案のしどころだと考えています。ただ、たとえば環境問題は深刻化しており、その課題を解決するために、何か新しい素材は必要になるでしょう。そこを見据えて研究開発を続けていきます。ひょっとしたら、今の東レとは違う事業形態になっているかも知れませんが、今までのやり方を一層進化させ、継続的な成長を図っていきます。

日東電工  私たちも、モノづくりが中心の会社ですから、やはり今後の経営環境の変化については、十分に考えていく必要があります。この10数年は、液晶分野に拠る部分が大きかったわけですが、次の数年先は別の分野に変わっていく可能性があります。こうした変化に上手く乗るためには、柔軟性が重要ですが、幸いにして弊社は、経営環境の変化に対するリソースの振り分けに強いという特徴があります。環境変化を柔軟に受け止められることが、企業としての存続を左右する重要な要素になるでしょう。

コモンズ    ありがとうございました。

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