プリファード・ネットワークスってどんな会社?
自動運転ではトヨタ、ロボットではファナックと資本提携。IPS細胞の山中伸弥研究室との共同研究。国立がん研究センターとのがん医療システムの開発プロジェクト…
3/11に開催される8周年イベント「The 8th Commons Dialog~共に創る"対話"の時間~」のザ・2020ビジョンのテーマコンテンツ『2020年に向けて』では、AIの最先端領域で世界を相手に戦うベンチャー企業、Preferred Networks(プリファード・ネットワークス)の取締役COO長谷川順一さんをゲストにお招きします。AIの最前線をご紹介いただきながら、AIを通して見る産業の変化、働き方の変化、有望な企業などについて会場の皆さんと一緒に少し先に見えてきた未来を描きます。でも、面白いことは少しでも早く知りたいですよね。そこで、実際にイベントで登壇していただく長谷川さんに、当日お話しいただくさわりだけ早速聞いてきました。
AIの最先端領域で世界を相手に戦うベンチャー企業
プリファード・ネットワークスってどんな会社?
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プリファード・ネットワークス
取締役最高執行責任者 長谷川順一さん
1986年ソニー株式会社入社。 IT研究所システムアーキテクト、 BSCカンパニー プラットフォーム技術部 統括部長などを歴任。
コモンズ投信マーケティング部 横山 玲子
3月11日のイベントをただの運用報告会ではなく、対話を楽しむ時間にしようと、意気込み中。今回のイベントに登壇していただく方のなかで、個人的に気になっているテーマのひとつがAI。- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
長谷川さん、プリファード・ネットワークスってどんな会社ですか。
人工知能を使って、自動車や工作機械などの機械をより賢いものにするのが、うちのミッションのひとつです。
たとえば、産業ロボットがたくさん稼働している工場では、人間がプログラミングして、こういう動きをしなさいと決めているので、ひとつのロボットが故障して動きを止めてしまうと、ライン全体が動かなくなってしまいます。しかも、なるべくロボットが止まらないよう、非常に細かい調整を積み重ねていくため、ロボット自体の値段よりも、そのシステムを組むシステムエンジニアリングに掛かるコストの方が高くなるという問題がありました。
でも、ロボットがもっと賢くなって、たとえば1台の動きが止まっても、他のロボットが協調し合い、止まったロボットの役割を補完しながら稼働し続けられるようなネットワークが組めれば、ラインが止まらずに済みます。機械単体に組み込まれた人工知能をより高度化させるだけでなく、人工知能と人工知能をつなぐネットワークの領域も含めて、より賢いものにしていく。社名の「ネットワークス」には、ネットワークをより賢いものにするという意味も込められています。
機械が賢くなるって、具体的にどういうことですか。
身近な事例で言うと、お弁当屋さん。これから人口がどんどん減っていくと、お弁当を詰めるという単純作業の分野で人手不足が生じてきます。だからロボットにやらせればいい、という意見もありますが、実は一見、簡単そうに思える「お弁当に唐揚げを3個ずつ入れる」ことが、ロボットには難しかったりするのです。揚げられた唐揚げの大きさはバラバラなのに、同じスペースに入れられる大きさの唐揚げを3個選ぶことが出来ない。人間ならその作業を簡単に行えるのですが、ロボットにはまだハードルが高いのです。でも、ディープラーニングによって機械が賢くなれば、決められたスペースに、大きさの異なる3つの唐揚げを入れられるお弁当ロボットが出来ます。
あとは、自動車の自動運転です。これは2020年にもなれば、かなり実用化されていると思います。自動運転では、自動車に複数のカメラとセンサー、ミリ波レーダーを搭載し、人、標識、車道、路側帯などを認識しながら、人や荷物を目的地までより安全に運ぶことを目標に開発が進められており、私たちはその認識の部分などもディープラーニングで学習し、その精度を上げるところで競争しています。この競争は本当に日進月歩で、カメラやセンサー、そしてディープラーニングの進化によって、昨年までは出来なかったことが、今年は出来るというくらいのスピードで、どんどん進化が加速しています。
ディープラーニングってどういう仕組みなのですか。
今までは人間がルールを作ってそのルールに従ったアルゴリズムを開発してました。たとえば、自動運転なら、人間にぶつかってはいけない、他の車に接触してはいけない、曲がる時はこうすれば上手に曲がれる、信号が赤になったら停まれ、歩道を走ってはいけないということを、すべてプログラミングしなければならないのですが、人間はすべての場面をルール化できません。ディープラーニングではまず、ぶつかってはいけないということを教え込みます。ぶつからなかったらプラスのポイントを上げる。だから、どうやったらぶつからずにポイントがもらえるかを学習していきます。動き出して他の車と接触したら、今度はポイントをガンガン減点します。すると、他の車にぶつからないように動いて、最高得点を取れるようになるにはどうすれば良いのかを、機械が学習し、よりスムーズに動けるようになります。障害物も最初は1個だけ置き、それを避けられるようになったら3個に増やすなど、徐々に難易度を上げていくうちに、全て避けて動けるようになります。
このように、自分で学習した結果をもとに起こしたアクションで得た結果から、さらに学習することを繰り返していくのが、ディープラーニングです。この方法だと、通常のプログラミングで行うと1年くらいかかるものが、1時間程度でクリアできてしまう。
しかも、コンピューターは決して疲れたとは言わないので、24時間365日学習し続けられます。勝手に賢くなっていくのです。
人工知能を活用して病気を治せる時代も来るのでしょうか。
国立がん研究センターおよび産業技術総合研究所と組んで開発プロジェクトをスタートさせました。国立がん研究センターには、がんに関する膨大な診断データがあり、これをゲノムデータと組み合わせることによって、過去、こういう遺伝子を持った人はこういうがんに罹ったという学習をさせていきます。現在の血液検査だと、がんに罹っているかどうかを判明できる確率は80%程度で、どの部分のがんなのかという精度もあまり良くなく、ディープラーニングを用いることによって、1滴の血液からがんであることを判明できる確率は99%以上まで上昇し、しかもどのがんなのか、ということまでわかるようになります。
今、IBMのワトソンという人工知能も、医療分野での応用が行われていますが、これは大量の論文、医療カルテから、こういう人にはこういう処方をすれば良いというように、あくまでも過去の知見から処方箋を見つけ出すものです。
これに対して我々が今、取り組んでいるのは、今まで分からなかった知見を、ゲノムデータから見つけ出すというチャレンジです。これが実現すれば、99%以上の確率で、特定のがんを早期発見できるようになります。
人工知能が本格的に普及するのは、そう遠い未来ではないとお考えですか。
人工知能は昔のトランジスタと似たようなものだと考えています。トランジスタが世に出た最初の頃は、性能そのものが悪くて、「こんなもの何に使うんだ」という声ばかりでしたが、ソニーが一所懸命、トランジスタの性能向上に努め、それを小型ラジオに搭載したことで、爆発的な需要を生み出しました。具体的に、何に使えるのかということが分からないと、爆発的な需要には結びつかないのです。
人工知能もそれと同じで、現時点では自動運転や産業用ロボット、あるいは医療分野などでの応用が行われていますが、これと組み合わせたら需要が爆発するというものは他にもまだ沢山あります。
ただ、ひとつだけ確信をもって言えるのは、トランジスタは電気信号に関連する部品なので、おもに電機業界に広がりましたが、人工知能は世の中に存在するすべてのデータを扱えます。データはさまざまなセクターの、さまざまな企業が持っているものですから、それがもたらす影響の度合いは、トランジスタと比べ物にならないくらい、大きなものになります。
人工知能は企業の何を、どのように変えていくのでしょうか。
自動車業界は、これまで自動車を作って、それを世界中で売れば利益が得られたわけですが、将来、自動運転が本格的に普及すると、自家用車という概念そのものが無くなるでしょう。そうなったら、自動車業界は車を作って売るということ以外の部分で、利益を得ていく必要があります。
その時、膨大な自動車、交通関連のデータを持っている自動車メーカーは、自動車保険のビジネスに乗り出してくるかも知れない。
あるいは医療機関が生命保険のビジネスに関わることも考えられます。
恐らく、高品質なデータをたくさん持っているところが、垂直統合的なビジネスに乗り出してくるでしょう。
また、それだけ膨大なデータインフラを、莫大な資金を投じて整備できる企業は、業界内でも1位、2位くらいまでに限られます。
つまり、人工知能が普及していくなかで、生き残れる企業は業界で1位、2位までということになります。きちんとデータを生み出して、それを新しい付加価値につなげられるような企業じゃないと、生き残れない時代になるでしょう。
最後に、プリファード・ネットワークスにはどんな人が集まっているのかを教えてください。
スタッフは全部で60名。うち20%は外国人のエンジニアです。毎年インターンを希望する方も多くて、海外からも50名くらいの方が応募してくれています。
こういう分野で、世界を相手にしのぎを削るわけですから、人数が多ければいいということではなく、草野球チームじゃなくて、プロフェッショナルな集団を作っています。
社内を見渡すと、国際的なプログラミングコンテストでのメダリストだったり、数学オリンピックで金メダルを取ったりしている人が普通にいますし、副社長の岡野原自身、10歳の頃から論文を読み、今も週に100本の論文に目を通して良いものはすぐにプログラミングしてしまうくらいの人物です。
世界的にトップレベルのエンジニア集団と自負しております。
長谷川さん、たいへん興味深いお話ありがとうございました!
3月11日当日は、今回、日本ベンチャー大賞において経済産業大臣賞を受賞したプリファード・ネットワークスとファナックが共同開発している機械の映像や、自動運転の映像なども使いながらさらに詳しくお話いただく予定です。また、長谷川様と鎌田・糸島との対談を通して、「ザ・2020ビジョン」が見据える"変化"を皆さまに体感していただけると思います。
ぜひ、会場に足をお運びください!
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The 8th Commons Dialog~共に創る"対話"の時間~
日時:3月11日(土) 10:30~17:30(受付開始 10:00)
場所:東京都中野区(コングレスクエア中野)参加費無料
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