<プレゼン抄録2>株式会社デンソー「ハードからソフトへ」

コモンズ30塾「企業との対話」~統合レポートを読み解く~株式会社デンソー セミナーレポート

パラダイムシフトに対応するための長期ビジョン

コモンズの視点を紹介する運用部の上野
株式会社デンソーは、1960年代に他社に先駆けてカーエレクトロニクス分野に注目し、60年代、70年代のモータリゼーションの流れに乗って成長してきた会社です。
80年代に入ってからは、日米自動車問題をはじめとする貿易摩擦問題がクローズアップされたことから、海外に生産拠点を設けました。こうして年々、海外拠点が増えていき、売上規模も海外中心にどんどん拡大してきました。
こうしたなか、2017年に私どもは新しい長期ビジョンを制定しました。そのスローガンは「地球に、社会に、すべての人に、笑顔拡がる未来を届けたい」というものです。
すでに大勢の方もご存知かと思いますが、自動車業界は今、100年に1度の大変革期に直面しています。さまざまな技術革新が、本当にいろいろなところで起きています。そのなかで、さらに会社が伸びていくためには、少し先を見据えて、何に力を入れていくべきかを考える必要性が高まっています。今までの延長線上で物事を考えていては取り残されてしまいます。
ワークショップ中の参加者の様子
自動車業界はさまざまな社会的課題を抱えています。地球温暖化、大気汚染、交通渋滞など、これらの社会課題を今後、どのようにして解決へと導いていくかについては、もちろんこれまで以上の努力をすることで、課題解決への道を模索していきます。
ただ、自動車業界はこのような過去から続いている社会的課題だけでなく、新しい変化の波にも直面しています。
デジタル化、AIといった新技術がどんどん登場し、物凄いスピードで進化しています。これにより、人々の価値観、消費行動が多様化し、それにともなってビジネスモデルも変化してきました。それも日本国内というよりは、米国や中国において、さまざまな変化が現れてきています。
まさにパラダイムシフトです。自動車、モビリティ社会において、電動化、自動運転、コネクティッド、シェアリングといった、今までに無かった新たな動きが、物凄いスピードで進行しています。その中で、弊社として何を大事にして事業に取り組んでいくべきかを考えたのが、前述した長期ビジョンです
そもそも自動車は、普通に走るだけで排気ガスを出しますから、環境にとって決して良いものではありません。また交通事故で人命を奪うこともあります。私たちの生活の利便性は確かに高まりましたが、環境や人命などを犠牲にしてきた面があることは否定できません。ただ、もう社会全体を考えた時、自動車の負の側面に目を瞑るわけにはいかないと思います。社会全体を見つめて、私どもに出来ることは何かを考えるべき時期に来ていると認識しています。
参加者の様子
長期ビジョンを取りまとめたのは、まさにそういう時代の機運が高まりつつある時期と一致していました。自動車業界では、資源問題のために燃費を改善していこうとか、排気ガスを無くしていこう、あるいは交通事故を出来るだけ減らしていこうということが、盛んに議論されてきましたが、もう少し広い視野を持って、社会全体、あるいは自動車業界以外の人たちと協力することによって、皆が安心して暮らせる社会を創っていこうというのが、今の状況です。
統合報告書を取りまとめたのは、私どものこうした取り組みについて、世の中にしっかり伝えていきたいという気持ちがあったからです。財務情報だけでなく、非財務情報、あるいは将来への期待も含めて、ステークホルダーの皆さんにお伝えし、共感を得たり、さまざまなフィードバックを頂戴することによって、私たちがそれを経営に活かして、さらなる成長につなげていく。そういうサイクルを作っていきたいと思います。

ハードからソフトへ

私どもが社会にご提供できる価値とは何か。基本的には、事業活動を通じて、いかにして社会課題を解決できるかという点に尽きると思います。具体的には、環境と安心を社会に届けていくことです。私どもが持っているさまざまな資本を活用して、しっかりした戦略のもとに、価値を生み出していきます。
その価値創造プロセスのなかで、私どもが留意しなければならないのは、社会が今、大きな変革期に差し掛かっていて、自動車業界もそれは例外ではないことです。結果、私どもも大きく変わらなければなりません。
従来は自動車部品をはじめとして、ハード面を作っていくのが私どもの中心的な仕事であり、そのために技術や技能に磨きをかけて、競争力を高めてきました。
でも、これからはハード面だけに力を入れてもダメです。もっとソフト面にも目を向けていく必要があります。いや、むしろハードよりもソフトの領域において、新しい価値がどんどん生まれてくる時代ですから、それに合わせて、事業領域、人材育成についても対応していく必要があります。特に自動運転などは、ハードだけでは成り立ちません。もちろんそれも大事ですが、ソフトもそれと同等か、それ以上に重要な要素になってきます。
また、その分野で活躍する人も、アマゾンやグーグルの出身者であったりして、既存の自動車業界で働いてきた人たちとは、発想が根本的に異なります。私たちは、そういう人たちと、これからグローバルに競争をしていかなければなりません。それが私どもの課題であり、そういう領域でも成長できるような戦略を立てています。
テーブルごとに質問を受けたり意見交換を行った
一方、企業価値を高めていくために、サスティナビリティ経営を重視していきます。前述したように、もともと社会課題を解決するために、環境や安心に配慮した経営を心がけていこうという観点から、長期ビジョンを取りまとめたわけですが、まさにSDGsの枠組みにぴったりということもあり、これからそれにもしっかり取り組んでまいりたいと思います。