<講演抄録>コモンズ30塾 企業とNPOが取り組む「ダイバシティ」
コモンズ30ファンドの投資先企業をお招きし、定期的に開催している「コモンズ30塾」。2018/6/22は、ダイバーシティをテーマにして、味の素の取組みについてお話いただきました。
カリキュラムの内容は、コモンズ投信会長渋澤健による開会の挨拶から始まり、運用部シニアアナリストの末山仁から、投資先企業の”味の素”について「5つの軸」と「コモンズの視点」について説明させていただきました。5つの軸とは、「収益力」「競争力」「経営力」「対話力」「企業文化」のことで、コモンズ投信が投資先企業を選ぶ時に、常に重視していることです。
そして、今回のメインテーマであるダイバーシティへの取組みについて、理事/グローバル人事部長の髙倉千春さまが登壇。
さらには、コモンズ30ファンドが行っている寄付のしくみである、SEEDCap第4回目応援先の認定NPO法人マドレボニータ代表、吉岡マコさんにもダイバーシティについてお話いただきました。
渋澤健とのトークセッションを挟んで、参加していただいた方からも時間いっぱいまで、たくさんの質問を頂戴しました。その内容をまとめました。
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味の素株式会社
髙倉千春氏
「味の素という会社 ひとりひとり花を咲かせる自律の施策」
私のキャリアは農林水産省からスタートしました。味の素に来て4年目です。
農林水産省は中級職として入省し、日米通商交渉に立ち会うなど、多くの貴重な経験をさせていただきました。キャリアアップを図ろうと上級職にチャレンジしましたが、なかなか受からず、フルブライト奨学生として米国の大学に留学し、MBAを取得しました。
その後、コンサルティング会社に転じて組織構築や人材開発に関連するコンサルティング業務に従事し、ファイザーや日本ベクトン・ディッキンソン、ノバルティスファーマでは人事部長を務め、4年前に味の素に来たというわけです。
現在、味の素は真のグローバル企業になるため、グローバル人事制度を構築し、それを実施しています。とはいえ、まだ道半ばというのが正直なところです。
ご存じの方もいらっしゃると思いますが、味の素の創業は1909年です。現在の売上は1兆1502億円、連結ベースの従業員数が3万4452人、味の素グループの製品を販売している国は130か国・地域で、世界22か国・地域に123の工場を展開している、まさにグローバル企業です。
多くの国・地域に拠点を持ち、そこには大勢の従業員が働いていますから、なぜ味の素で一緒に働いているのかというフィロソフィーをきちんと固める必要があります。
私たちは、事業を通じて解決に取り組むべき21世紀の人類社会の課題を、「地球持続性」、「食資源の確保」、「健康な生活」の3つとしました。
そして、2014-2016年の中期経営計画では、これらの課題解決を図り、社会価値を実現することで新たな経済価値を創出し、事業の成長加速を目指す取り組みとして、「Ajinomoto Group Shared Value(ASV)」を掲げました。
企業は、経済的な価値で勝負するものですが、同時に社会的価値もしっかり考えていかないと、これからは生き残っていけません。
私たちは、ASVを通じた価値創造ストーリーとして、「食を通じて、家族や人と人がつながり、多様なライフスタイルを実現できる社会づくりに貢献する」ことを、真剣に、真面目に非財務分野の重要課題に入れています。
さて、ASVを実現していくためには、社員が必要なのは言うまでもありません。
でも、画一的な発想しか出てこない組織では、この不確実な時代を生き残っていくことは出来ません。
いろいろな発想こそが必要で、だからこそ多様性のある組織を作る必要があります。
だからこそ、ダイバーシティ、そして働き方改革なのです。
今までみたいに長時間労働をしていたら、多様な発想は生まれてきません。会社で働く時間は1日7時間15分が前提です。
社員は出社したら、自分が何時に帰るのかをホワイトボードに書きます。上司はそれをチェックして、部下に今日の仕事の指示を出します。
ダラダラ残業はなし。
会社にいる時間を短くして、他の時間で何をするかが大事です。
もちろん、呑みに行って社内外の人たちとコミュニケーションしても良いですし、英会話を学ぶとか、健康増進のためにスポーツジムに行くとかでも良いでしょう。
とにかく、遅い時間まで会社に居残り、ダラダラと仕事をするのではなく、趣味でも健康増進でも、何でも良いから自分の時間を持つこと。
これまでの日本の働き方からの脱却こそが、多様な発想を生み出すもとになるのです。
あとは女性の働き方をどう改革していくか。結婚や出産で働くことを諦めるのではなく、細く長く働き続けられるような支援をしていきます。
この3月には川崎事業所内に「アジパンダ®KIDS」という事業所内保育所を開設しました。加えて、女性社員のための人財委員会も発足させています。
もっとも、勤務時間を7時間15分にすることについては、「そんなことは出来ない」という声も多数ありました。そこで2本の柱を考えました。マネジメント改革とワークスタイル改革です。
マネジメント改革については、会議資料や経営会議の簡素化を行いました。
昔は会議資料を作成するにも、いちいち「テニオハ」を気にしたり、膨大な資料をコピーしたりして、それに社員は忙殺されるという状態でした。
こうした作業を簡素化させるだけで、勤務時間の短縮化が進みます。
次にワークスタイル改革ですが、サテライトオフィスを作りました。
当初は、管理職を対象にして1週間のうち1日は自宅作業を推奨したのですが、日本は住宅事情がよろしくなく、キッチンで作業をする人もいて、そのうち家人から文句が出始めたため、沿線にサテライトオフィスを作りました。
そうすることで、わざわざ会社まで行かずに、自宅の近所で働ける環境を構築しています。
ただ、自由な働き方は自己管理が非常に大切です。
上司の目がない、同僚もいないという中で、自分の仕事をきちんとこなすためには、自分で自分を律する気持ちがないと続きません。
AIやIoTがどんどん進化するなか、人はいかにして機械に置き換えられないような仕事をしていくかが、問われるようになります。
機械では出来ない付加価値の創出につながるアイデアを、社員一人ひとりが生み出していけるような環境を人事として考えるのが、私たちの仕事です。
長時間、会社に縛り付けられるようではダメです。
仕事だけでなく家族、自分、地域コミュニティを、それぞれ均等に大事にすることで、そういうアイデアが生まれてくるのだと思います。
吉岡マコ氏
「ボストンで学んできたこと」
マドレボニータという認定NPOのファウンダーで代表をしています。
マドレボニータとは、スペイン語で美しい母を意味します。
母親になってからも綺麗な容姿を保つというような表面的なことではありません。
母となったからこその清濁を併せ呑んだ美しさを追究したいという思いを込めています。
法人化して10年が経過しました。
日本では、妊娠から出産までは手厚いケアがありますが、出産後は何もありません。
完全な自己責任です。自分が出産した20年前に、初めてそのことを知りました。
多くの母親は、それを我慢して乗り切りってきたのだと思いますが、私は「そんなことで良いはずがない、出産後には絶対にリハビリが必要だ」と思い、自分の体を実験台にしてバランスボールを使ったトレーニングを始めました。
それを続けていくうちに、自分の体調も良くなり、同じような産後の女性にニーズがあるのではないかと思い、「産後ケア教室」を立ち上げまました。
その後、プログラムを標準化し、インストラクターの養成・認定制度を作りました。
2008年に、NPO法人化をし、今では全国19都道府県、68カ所で教室を展開しています。
20年間の活動を通じて、私たちは、女性が産後に抱えがちな、さまざまな問題を解決しようとしてきましたが、実はそれ以上に、女性のエンパワーされる力の凄さを、改めて認識しました。
産後ケア教室で、しっかり運動をして体力を取り戻し、対話を通じて自分と向き合うことで、より自分らしい人生を歩めるようになったという声を多く耳にします。
パートナーとの関係が良くなった、仕事でも自分らしく力を発揮できるようになった、自分のミッションを見つけた、など、熱い感想をいただくのです。
単に元気になった、ラクになったというだけではない、人間が本来持っている力を開放するというレベルに達した方を大勢見てきました。
産後というトランジションの時期は、こうして自分と向き合うチャンスなのだということを今は確信しています。
私はこの春、米国のフィッシュファミリー財団が主催するJapanese Women’s Leadership Initiativeというリーダーシッププログラムに参加し、ボストンに4週間滞在しました。
ボストンがあるマサチューセッツ州の人口は東京の半分くらいなのですが、NPOの数は東京の2.5倍もあります。事業規模も大きく、政府や企業では解決できない課題を解決するために活動し、多くの市民がその活動を支援しています。
わたしは、ボストンでそのプログラムに参加して、さまざまな励ましをもらって帰国しました。
リーダーシップとは何か。
日本でリーダーシップと言うと、多くの人は社長、学級委員長など「長」が付く役職を持っている人をイメージされるでしょう。
でも、リーダーシップは誰もが持っているものなのです。
その人が持っている才能を発揮して、何か変化を起こす、影響を及ぼすのがリーダーシップだと学びました。
それは、誰でも発揮できるものだし、そのためのトレーニングがあることを知りました。それは精神論ではなく、訓練と実践で身に着くものです。
多様性が求められる時代、自分の持つ才能を発揮するためには、頭脳、スキルだけでなく、精神的な強さや共感力、自分に向き合う力が必要ですが、その土台として、身体的に鍛えられていることが求められます。
そのことに気付いた時、マドレボニータを通じて20年間、続けてきたことは間違っていなかったことを再確認するのと同時に、これからの活動につなげていこうという気持ちを新たに持ちました。
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渋澤×髙倉さま×吉岡さまトークセッションはこちら
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