<トークセッション>「多様性のある社会をどう築くか」

コモンズ投信の投資先企業を招いて定期開催している「コモンズ30塾」が、6月22日、東京21Cクラブで行われました。
今回、ゲストにお招きした投資先企業は、味の素株式会社。そのグローバル人事部長の髙倉千春さんに加え、コモンズ30ファンドが行っている寄付のしくみである、SEEDCap第4回目応援先の認定NPO法人マドレボニータ代表、吉岡マコさんにもお越しいただき、企業とNPOが取り組んでいるダイバシティについてコモンズ投信会長渋澤とお話しいただきました。


髙倉千春(味の素株式会社 理事/グローバル人事部長)×


吉岡マコ(認定NPO法人マドレボニータ代表) ×

渋澤健(コモンズ投信会長)

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渋澤   吉岡さんは味の素の試みを聞いて、どのような感想を持ちましたか。

吉岡   早く帰れるのは素晴らしいことですね(笑)。社員の自律性に期待するというお話がありましたが、それは社員の能力を信じているから出来ることだと思います。
そういう人の才能を、この会社で開花させて欲しいというメッセージを感じました。

渋澤   吉岡さんが4週間過ごしたボストンには大学がたくさんあるから、若者が大勢います。日本の若者は自分に自信が持てない、将来が不安だと思っている人が大勢いる印象を受けるのですが、ボストンの若者と比べてどう思いましたか。

吉岡   TEDトークなどを見慣れていると、アメリカ人はみんな物凄い自信を持っているんじゃないかと錯覚してしまいますが、実は、そんなことないんですよ。
本当に人によります。
若くして自信に満ち溢れている人というのは、エンパワーされる環境にあり、常に励ましのシャワーを浴びている。
「あなたには才能がある」、「あなたがやらなくて誰がやるの」という言葉を毎日聞いているうちに、自分なら出来ると思うようになる。
若者と対峙する年長者は、若い人が持つ才能を信じて励ますことが大事だと思います。


渋澤   髙倉さんはグローバル人事部長という立場ですが、ASVを作り上げていくうえで、若者にはどういう期待をしていますか。

髙倉   自律した社員になるためには、自分で考えることが大事だと思います。
これは若者に限った話ではなく、日本人全体にそうだと思うのですが、大勢いるところで手を挙げて自分の意見を言える人が少ないでしょう。
私が25年前に外資系企業に転じた時、英語での電話会議などで何も発言せずにいると、「チハル、寝ているの?」って言われたものです。
要するに、会議の場で何も発言しないと、組織に貢献していないと思われるのです。
語学力以上にメンタリティがしっかりしていないと、組織のなかで存在感がどんどん薄くなります。
だから、しっかり自分の考えを持って発言することが、グローバルの組織では重要になるし、それが出来るような存在になることを、これからの若者には期待しています。


渋澤   今日は就活中の学生も何人かいらっしゃっているので、今の時点でどういう点が不安なのか、ちょっとお聞きしたいと思います。

学生A  就職活動でいろいろな企業を見ているのですが、やはり入社してからでないと分からない部分もあるでしょうし、就職してから「合わない」ってことになるのではないかという点が不安です。

学生B  今、外資系金融機関と客室乗務員の2つで内定がいただけそうです。
外資系金融機関でバリバリ働くか、客室乗務員としてホスピタリティのプロになるかで働き方も人生も変わると思います。
不安というか、どちらを選べば良いのかという悩みがあります。


髙倉   あまり無責任なことは言えませんが、ハートが大事だと思いますね。
自分はこれをやってみたいと思える瞬間、あるいは面接の応対をしてくれた人を見て、「あ、この人となら一緒に働いてみたい」と思える瞬間って、あると思います。
そういうところで決めても良いと思いますね。
あと、失敗するのが怖いと考えている人は多いのですが、やはり失敗してみないと分からないことがたくさんあるのも事実です。
だから、早い時期にたくさん失敗しておくのも良いでしょう。
チープな失敗なら、十分にリカバリーが効きます。
グローバル競争の世界では、失敗を恐れないことが大事です。


渋澤   働き方改革を進めるなかで、勤務時間を短くし、そこで付加価値の高いものを生み出すためには、何かを捨てなければ出来ないと思います。
ご自身の経験上、何を捨てれば良いと思いますか。

吉岡   私がマドレボニータを立ち上げた時は、捨てるものが何もない状況でした。
リソースが全く無かった。だから、とにかく工夫を重ねることによって、少ないリソースで成果を出すためにはどうすれば良いのかを必死に考えました。

髙倉   勤務時間を短くして生産性を上げるためには、いかにしていらない仕事を捨てるかが勝負になるのですが、問題は「いらない仕事ってなに?」ということです。
ここが難しいのですが、捨てるべきは過去の成功体験かも知れませんね。
過去の成功体験が、つまらない慣習を生み出し、それが積み重なって、組織は身動きが取れなくなる。優秀なリーダーは、常に組織内に危機感を醸成します。
いくら業績が良くても、株価が上がっていたとしても、危機感を持たせるようにするのです。
組織のリーダーだけでなく、組織を構成する一人ひとりがそうなると良いと思います。


渋澤   恐らく、男性よりも女性の方が、捨てるのが上手いのではないかと思います。

吉岡   私も、定期的に捨てています。
大ベストセラーになった『人生がときめく片づけの魔法』で紹介されていた方法がありまして、例えば本棚を整理する時は、本を全て本棚から取り出して床に置いて、1冊ずつ手に取り、ときめくものは残しておく、ときめかないものは捨てる。
それは自分と向き合う作業であり、価値観が反映されます。


渋澤   一般的に日本人は自律性が低いということですが、逆に日本人のここが高い、優れているという点があれば教えて下さい。

髙倉   ゴールを共有する力ですね。
チーム全体で、ここに向って力を合わせて行動するという力は、とても高いと思います。

吉岡   本当の謙虚さでしょうか。
何でも自分の手柄にするのではなく、他に貢献した人がいれば、そのことに言及する。
これは、リーダーシップのプログラムでも度々話題になったことでした。

渋澤   ダイバシティを考えた時、日本企業では今、役職定年などと言われていて、年齢が一定になったところで、ほぼ一律にポジションから外すという傾向が見られます。
ただ、人生100年時代を迎え、シニアのやりがいも重要になると思いますが、この点をどうお考えですか。

髙倉   これは人事関係者の間でも大きな問題になっています。
日本の労働力は、このままいくと確実にシュリンクしていきますし、シニア層の活用は重要になるでしょう。
なので、シニア層の人たちが自分の強みに気付き、活躍する場を見つけることを、人事としてどう後押しするかを考えています。
たとえば先日、ある自動車メーカーのテストドライバーが定年退職を迎えたのですが、その後、製紙会社の品質管理に新たな職を得ました。
自動車と紙。全く違うものですが、ポイントは問題解決能力だったのです。
そういう強みがあれば、ジャンルに関係なく、セカンドキャリアを築いていけると思いますし、会社から離れて自分らしく生きるのが、日本の次の発展につながっていくと信じています。

吉岡   マドレボニータは女性が多いのコミュニティですが、実は四半期に1度の割合で開催している理事会に参加しているアドバイザリーボードのメンバーのうち、5人が男性です。
今まで積み上げて来られたキャリアを、ノンプロフィットの分野で活かすという生き方があるんですね。
米国でも、ビジネスで成功された方が、キャリアの締めくくりとしてノンプロフィットに転じるケースが非常に多く、それがステータスにもなっているようです。日本でも、そういう人が増えると良いと思いました。

渋澤   多様性が大事だと言われていますが、それでもまだ日本の企業は男性社会の面もあります。この背景の一部には、親の問題があるような気がします。
つまり、女の子だと「早く結婚しなさい」と言われ、結婚すると「早く子供をつくりなさい」と言われる。
そこには、女性も社会でどんどん活躍するべきだという視点が完全に抜け落ちています。この問題をどう考えれば良いのでしょうか。

吉岡   働くのは人間の基本的な権利です。
なので、女性に生まれたから働かず、家庭を守れという意見には全く賛成できません。
私は子供が大きくなってから特に、本当に働いていて良かったと、心から思っています。

髙倉   同感です。学業優秀だった人ほど挫折するのですが、すべてにおいて100点満点を追求しない。
子育て、家事、仕事の全てにおいて100点を取るのは不可能です。
だから、自分が出来ないことはサポーターを見つけてお願いする。
そのくらいの気持ちで、とにかく長働き続けることが大事だと思います。

渋澤   ありがとうございました。


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