未来~貯蓄から資産形成への流れを支える運用会社に


伊井   この10年、コモンズ投信を続けてきたなかで、渋澤さんにとって嬉しかったことって何ですか。

渋澤   まず、さまざまな人たちとの出会いに恵まれた点は、最高に嬉しいことですね。そして、コモンズ投信を立ち上げる際に我々がいろいろ考えたコンセプトが、現在の日本社会で注目されるようになったのは嬉しいですね。
伊藤邦雄一橋大学大学院商学研究科教授が座長を務めた、経産省の「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクトの最終報告書(通称:伊藤レポート)では、企業と投資家の対話や、見えない価値、ESG投資に重きを置くことが指摘されていますが、これらは皆、今までコモンズ投信が追求してきたものばかりです。
我々が必ずやこうなると信じて取り組んできたことが社会でも重要視され始めているということは、社会に対しても一定のインパクトを与えることが出来たのではないかと思っていますし、何よりこうした流れを嬉しく思っています。

伊井   ジュニアNISAもそうでしたね。コモンズ投信では、2010年からイギリスの「チャイルドトラスト」を範にして「こどもトラスト」という新サービスをスタートさせました。これは絶対に社会に必要な仕組み(サービス)だと思ったからです。ですから自分たちがまず実践すると同時に、コモンズ投信が事務局となって、政府に対してNISAではなくジュニアNISAから始めるべきだという私的政策提言も2012年に行っていました。自分たちが思っていた以上に早くジュニアNISAはスタートしましたが、微力ながら我々の政策提言もその一助となったのではと思っています。あとは今、渋澤さんが言ったように、総じてこの10年は、ファンドを通じて自分たちが実現したいと思うことを愚直に進めることで、企業との対話、社会起業家の応援などを行うことができ、それが社会変革を進める一助になっているのではと実感することも多く、それが嬉しかったですね。

渋澤  また、これからの社会変革という観点で2015年に開催された「国連持続可能な開発サミット」で掲げられた2030年までの「持続可能な開発目標(SDGs)」に注目しています。
これは、2000年から2015年まで適用されたMDGs(ミレニアム開発目標)と異なり、先進国が途上国を援助する開発目標に留まらず、先進国自身の持続的な経済開発の目標でもあります。全部で17の目標と169のターゲットがありますから、大企業も中小企業であっておも、SDGsに取り組むことができる。そして、SDGsに取り組むことは、企業の持続的な成長を支える、非財務的な「見えない」価値の創造に寄与していくことが期待できます。
ただ、どうも残念ながら多くの日本企業の場合、現時点においては、目に見えない価値が市場でほとんど評価されていません。ただ、市場が見えない価値を評価する会社は、現在の業績、つまり財務的な「見える価値」だけではなく、その会社の将来性へのプレミアム(期待)が高まり、株価上昇へとつながります。

伊井   コモンズ投信の投資方針を決定する投資委員会って、いつも参加者全員が意見を激しく戦わせるじゃないですか。あれ、とても大事なことだと思っているのですよ。同じ企業を見るにしても、渋澤さんと私は経営者の視点を重視する。ポートフォリオマネージャーやアナリストは、市場からの視点を重視する。どこに重きを置くかによって、さまざまな意見が出てくる。そこで意見を戦わせることで議論が深まり、合意形成がなされていく。
そのプロセスをきちんと回せれば、きっとより素晴らしい長期投資のファンドになると信じています。


渋澤   アクティブ運用はインデックス運用に勝てないと言われますが、それはあくまでも一般論です。我々のように長期資本を提供し、企業としっかり対話をすることによって、インデックス運用を超えるリターンが実現できるアクティブ運用の存在を立証したいです。

伊井   日本における投信利用者は、全人口の7%程度。これに対して米国の場合、全世帯比になるのですが、45%の世帯が投資信託を活用して資産形成をしています。つまり、米国などの先進国では、投資信託を活用した長期的な資産形成は生活者の皆さんが当たり前のように取り組んでいるんですよね。日本もNISAやiDeCoなどの非課税制度も政策として充実をしはじめ、まさに貯蓄から資産形成の流れが始まりました。多くの生活者の皆さんの夢や希望の実現に、そして将来の不安を和らげるために、投信を通じた資産形成でコモンズはお役に立ちたいと考えています。
加えて私たちは、社会起業家や障がい者スポーツの応援、そしてこどもたちの金融教育に取り組んでいます。そこには、単なる資産形成だけでなく社会を変えるお金の使い方を提案していきたいとの想いがあるからです。
やりたいことはまだまだ沢山ありますので、前に進みましょう!