見えない資産にスポットを当て、企業価値の向上ストーリーを語る

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定期的に開催されているコモンズ30塾。
今回(2018年8月24日)は堀場製作所のびわこ工場「HORIBA BIWAKO E-HARBOR」で開催しました。
今回のテーマは「統合レポートを読み解く」で、京都企業の代表的な1社である堀場製作所IR担当副部長の上杉英太さま、堀場製作所びわこ工場長の西村公志さまと共に、弊社代表取締役社長の伊井哲朗が対話を行いました。
参加者は(当日の台風の影響もあり)15名。統合レポートのワークショップ終了後は、びわこ工場HORIBA BIWAKO E-HARBORの見学、そして懇親会も行われ、和やかなうちに1日のプログラムを終えました。
今回のレポートでは、冒頭に行われた堀場製作所の上杉英太さまによる統合レポートのプレゼンテーションと、その後に引き続いて行われた、上杉英太さまとコモンズ投信最高運用責任者伊井哲朗のトークセッションをお届けします。
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株式会社堀場製作所
IR担当副部長 上杉英太さま
「見えない資産にスポットを当て、企業価値の向上ストーリーを語る」

■5つの事業セグメントで世界シェア向上を目指す

堀場製作所の会社概要から説明したいと思います。
本社は京都市南区吉祥院。JR西大路駅の近くにありまして、近所にはワコールや、GSユアサの本社があります。

1945年に創業者の堀場雅夫が、現在の堀場製作所の前身となる会社を立ち上げ、それが1953年に株式会社化されました。

なので、株式会社堀場製作所の創設は1953年になり、そこから数えて、今年は創業65周年になります。

グループ全体の従業員数は、7700名。
決算日は12月末の12月決算企業です。
代表者は堀場厚(代表取締役会長兼グループCEO)です。創業者である堀場雅夫の息子で、社長としては3代目です。
現在は会長になり、4代目社長は足立正之が就いています。が、現状、会社のビジネスをリードしているのは、CEOの堀場厚になります。

事業内容ですが、堀場製作所は5つの事業セグメントを持っています。

一番大きいのが自動車事業で、自動車のエンジン排ガス測定装置を提供しています。
二番目に大きいのは半導体事業で、それに次いで医用事業があります。自動血球計数装置を中心として、血糖の測定装置も製造しています。いずれも個人向けではなく、病院に納めています。つまりプロ用の機器ですね。
これら以外に科学事業と環境事業があります。
製品の種類はさまざまで、たとえば水質計測装置とか、大気汚染監視用の分析装置があります。
世界市場におけるシェアは、各分野とも高く、一番ビジネスとして大きいのは、エンジン排ガス測定装置で、世界シェアの約8割を占めています。
そのほか、半導体製造装置に組み込まれるマスフローコントローラーや煙道排ガス分析装置、自動血球計数CRP測定装置なども、高いシェアを持っています。

業績ですが、2018年12月の最新予測だと売上高が2,120億円、営業利益が310億円で、営業利益率は14.6%です。
この予測通りだと、ROEは13.8%になり、この業種においては、かなり高い水準になります。
自動車、環境、半導体、科学の4事業で、売上は最高を更新する予定となっており、営業利益では自動車と半導体が、やはり過去最高を更新する予定です。

■3つのエピソードで語る堀場製作所の歴史

堀場製作所の歴史を簡単に紹介します。
現在に至るまでの歴史には、3つのエピソードがあります。


最初のエピソードは、初代社長である堀場雅夫の時代で、学生ベンチャーとして起業しました。pHメーターといって、酸性、やアルカリ性を電気的に計測する装置を開発し、売り出したのが最初の事業です。

二つ目のエピソードは、2代目の社長である大浦政弘の時代です。大浦さんは堀場家の出身ではなく、堀場製作所の従業員から社長になった方です。この方がエンジン排ガス測定装置を開発し、堀場製作所の自動車計測事業の礎を築き上げました。

エンジン排ガス測定装置の前に、人間の息を測る装置を作っていたのですが、これが非常に優れた性能を持っており、排ガスの測定装置に応用できるのではないかという話が出て、米国の自動車メーカーにそれを売り込んだのが大浦さんです。創業者の堀場雅夫は、「もともとは人間の息を測定する機械なのに、汚い自動車の排ガスを測るなんてとんでもない」ということで大反対だったそうですが、大浦さんは、こっそり排ガス測定装置を開発して、売ってきてしまったのです。

そして三つ目のエピソードが、現会長である堀場厚の時代です。1992年に社長に就任した後、グローバルなM&Aで事業をさらに拡大させました。

最初のM&Aが96年で、その後、97年、2005年、2015年というように、M&Aを行い、売上高を4倍以上に増やしました。今年度、売上高が2,000億円を超えれば、4倍どころか5倍に増えたことになります。

このように、グローバルなM&Aを4回も行った結果、何が起こったのかというと、外国人従業員の比率が高まりました。2017年12月の数字ですが、日本人の従業員比率は40%を割りました。ただ、ちょっと面白いのが、多くの日本企業はアジアを中心に進出していますが、弊社の場合、アジアはむしろ少なくて、比率として高いのはフランス、イギリス、ドイツ、アメリカといった先進国です。

社是は、「おもしろおかしく」です。人生の中で最も活動的な時期、会社で時間を費やすことが多くなりますが、だとしたら仕事が面白くなければ、人生が不幸になります。だから、「おもしろおかしく」なのです。最初、堀場雅夫がこれを社是にしたいと言ったら、「いやいや、おもしろいのは社長だけです」というように従業員からの反対意見もあったと聞いています。

■「見えない資産」をどう読ませるか

さて、ここからは統合レポートである「HORIBA Report」について紹介させていただきます。
弊社のIR活動が本格化したのは、2000年からなので、その歴史は18年足らずですが、この間にIR協議会などから表彰いただいたこともあります。
統合レポートは2013年から発行しています。

堀場製作所が考える統合レポートとは、財務情報をベースにしているものの、同時に、財務諸表に載らない情報、つまり見えない資産である人材や技術などにスポットを当てつつ、企業価値の向上ストーリーを語ることだと思っています。

言い換えると、会社を最も正確に表現する年次報告書が統合レポートであるという認識です。また2013年版までGaiareportというCSR報告書を発行していたのですが、現在、冊子としては発行を止め、詳細情報をウェブサイトに公開する形に移行しました。

対象読者は長期視点の投資家です。何を伝えれば、長期目線の投資家が堀場製作所のファンになってくれるかを日々考えながら、年1回の冊子にまとめる努力をしています。そのために、アクセントと一貫性のある誌面構成を心掛けています。

特徴は4つあります。

第一に、「見えない資産」にフォーカスしていること。統合報告書としてのHORIBAレポートは2013年からですが、アニュアルレポートは1998年から刊行していて、「見えない資産」を掲げるようになったのが2004年からです。

堀場製作所の株価は、上場した1970年代から2000年前後まで、ずっと1,000円前後で底這いだったのですが、徐々にその辺りから、企業価値の向上を目指し、見えない資産に注目するようになりました。

第二に、コンパクトなページ数と、持ち運びしやすい軽さ。実際、ページ数は少ないですし、手に持った感じも軽くするため、紙質にも工夫をしています。

第三に、自分で考え、自分で書くことを心掛けています。ライターに依頼する部分は、ごく一部に過ぎません。出来る限りIR担当が、自分の言葉で書くことをモットーにしています。

第四は、人の顔が見えること。製品そのものよりも、堀場製作所という会社を紹介するための媒体ですから、どのような人がこの会社を運営しているのかを紹介したいと考えています。

個人的に注目していただきたいのが、HORIBA Reportの5ページ目にある「HORIBAの価値創造サイクル」というタイトルの特集です。堀場製作所の価値創造サイクルを、木に喩えて表現してみました。「おもしろおかしく」という企業文化が土壌になり、冒頭で触れた5つの事業という「幹」を築き、見えない資産や事業、価値といった果実がなっていく。

そして、果実の種が地面に落ち、それがさらに豊かな土壌を築いていくというものです。お金という経済的な価値だけではなく、社会的な価値を生み出していく形も見せられるようにしました。

特にSDGsやESG投資の考え方を踏まえ、CSRのページで、それらの考え方や活動内容の説明につなげています。
加えて、今年の1月から、それまで社長だった堀場厚が代表取締役会長兼グループCEOになるのと同時に、代表取締役副会長兼COOに齊藤壽一、代表取締役社長に足立正之という3人を中心にした体制で経営していくことになりましたが、新経営体制の発足により何が変わるのかを明確にするため、所信表明として堀場のCEOメッセージだけではなく、齊藤、足立の両名についても、自分たちは何をするのかを公言してもらいました。

加えて社外取締役の方々の客観的な意見を取り入れたうえで、どのようにしてこの新経営体制が決まっていったのかというプロセスも明らかにしています。

そして、これは将来的な話ですが、継続的かつ長期的な成長を目指していくうえで、今後の経営人材育成をどうするかも含めて解説しています。 

また、19ページから22ページでは、次世代モビリティへのシフトにおけるHORIBAのチャレンジについて特集を組みました。ビジネスの目前に拡がるリスクとチャンスを事業セグメントの特長と共に紹介し、エネルギー問題にも一石を投じたいという思いで作り込みました。

最後に、統合レポートを作るうえでの苦労話ですが、やはり58ページという限られたページ数の中で、すべてを紹介し切れないもどかしさがあります。あるいは各事業部門が、それぞれのお客様に対してアピールしたいことと、株主の皆様に対してアピールしたいことには、どうしても違う視点が入ってきますので、そのすり合わせをどうするかも、苦労しました。ここは常に頭を悩ませるところです。

このような苦労はありますが、継続的な企業価値の向上に向けて、今後もさまざまな工夫をしていきたいと考えています。ご清聴、ありがとうございました。


【トークセッション】
上杉英太さま(株式会社堀場製作所IR担当副部長)
             ×
伊井哲朗(コモンズ投信株式会社代表取締役社長)
「投資のヒントになる統合レポートの読み方・着眼点」

伊井   まず、どうして統合レポートのようなものが作られるようになったのかという経緯ですが、もともとは外国人投資家向けだったのです。外国人投資家は普段、日本にいません。
実際に投資を検討する段階になって、日本の企業を調べようとしても資料がないということで、統合レポートや、その前身にあたるアニュアルレポートが作られるようになりました。
ただ、日本の機関投資家って、特に昔は全く読もうとしませんでした。長期投資ではなく短期投資でしたから。そこで上杉さんに伺いたいのですが、今、日本の機関投資家の何割くらいが、統合レポートに目を通していますか。

上杉   そうですね。国内機関投資家との面談に行くと、大抵、HORIBA Reportの冊子か、Webサイトから印刷したものを読み込んでいる方が多いと思います。

伊井   なるほど。何を申し上げたいのかと言いますと、個人で個別企業の株式に投資している方は、統合レポートを機関投資家よりも読み込んだ方が良いということなのです。
これ、中身にとても価値があります。コモンズ30ファンドは、2009年1月に設定されたのですが、最初に組み入れた30銘柄のうちの1社が堀場製作所でした。なので、かれこれ9年くらい保有し続けているのですが、この間に株価は4、5倍になっています。
では、堀場製作所の株式を、何度も売買して資産が5倍になるかというと、多分ならないと思います。短期の投資家はそれを行うわけですが、これだとつまみ食いは出来ても、本当の意味で、その企業の成長から果実を得ることは困難です。一方、私たちは長期投資家なので、この9年半の株価上昇を全部取れています。
では、コモンズ30ファンドに組み入れる銘柄を調査しはじめた10年ほど前に、堀場製作所の売上が倍になっているとか、1株あたり利益が4、5倍になっているという予想が可能だったのかというと、それも困難です。10年後の売上がいくらになっているのかは、ほぼ予想できません。すると、見えない資産に注目するしかありません。
コモンズ投信では「見えない価値」と称しており、収益力、競争力、経営力、対話力、企業文化に注目します。この5つのうちの、収益力以外の4つは、見えない資産です。
競争力は、当時から高いシェアを持っていたものの、それをどこまで維持できるのかという点に注目しました。

経営力は、堀場厚さんの負けん気の強さ、熱いスピリッツを持った経営者であることに加え、バランスの良い経営陣であるのと同時に、次代を担う経営者を育てていく姿勢を持っていました。
対話力や企業文化も、この統合レポートでも非常に高いものを持っていることが分かります。
以上の点から、この会社なら長期で株式を持てるのではないかという判断のもとで投資しました。今日、お越しいただいた皆さんも、バランスシートのように見える部分だけでなく、こうした見えない資産にも注目すると、長期で持てる企業に出会えると思います。
2015年、イギリスのMIRAを買収したわけですが、どうやってこの買収を成功させたのかを伺ったところ、堀場製作所の企業文化である「Joy and Fun」が気に入ったのだそうです。なるほどなと思いました。

上杉   MIRAについては2015年に買収しまして、特に自動運転や電気自動車の開発支援の分野に注力しています。正直これからですね。
私たちも年間30億、40億円投資し続けている状況ですから、これを本当にうまく成長させられるかどうかは、次の時代の堀場製作所にとって、非常に大きなチャレンジだと思います。
これまでも何度か買収は行っているのですが、今回はちょっと状況が違います。
たとえば1996年と1997年に、いずれもフランスの会社を買収しているのですが、両者とも競合企業ではなくて、堀場製作所がフランスから仕入れ、日本で売っていた製品を作っている会社でした。したがって、堀場製作所のブランドを壊す心配がありませんでした。
また2005年には、ドイツの事業を買収しているのですが、その事業は、堀場製作所の製品開発事業とのシナジーが期待できました。
今までの買収は、いずれも分析計測機器というハードウェアを作っているメーカーでした。でも、MIRAというイギリスの会社は、開発支援やコンサルティングを行うエンジニアリング会社で、ハードウェアは作っていません。堀場製作所にとってまったく新しい事業なのです。しかし、買収後の統合は今までよりもスピードを上げられると期待しています。
というのは、MIRAの社長であるジョージ・ギレスビーは、実は過去2回、経営に関わっていた会社を堀場製作所に買われるという、希有なビジネス人生を歩んでいる方です。ですので、堀場製作所の企業文化は百も承知です。MIRAには600人前後の社員がいるのですが、堀場製作所の考え方は、きっと上手に伝えて下さるでしょう。
なので、あとは今変わりつつある自動車産業で、堀場製作所とMIRAが持っているノウハウを、どのように生かすかを全力で考えている最中です。

伊井   対話力は、コモンズ投信の投資基準のひとつですが、堀場製作所の統合レポートは本当に読みやすいですし、先ほどお話がありましたように非常に軽く、持ち運びやすいし、ページもめくりやすい。加えて、出来る限り自分たちで書くようにしている点が非常に評価できると思います。
現在、統合レポートを出している上場企業は500社ぐらいあるのですが、私たちが読むと、「これ、社長は書いていないでしょ」と気づいてしまうケースが結構あります。

上杉   うちも社長が直接、ワードで文章を埋めるわけではないのですが、私たちが話を聞いてまとめても、物凄い数の修正が入ります。それだけ、統合レポートに対する思い入れが強いのでしょうね。でも、伊井さんへ質問ですが、どこで社長の言葉ではないなんてわかるのですか。

伊井   文章の冒頭で、「私が・・・・・・」と書き出している文章は、社長が直接書いている、あるいはIR担当者が書いたものを、社長自らきちんと手を入れているケースが多いように思えます。
でも、「当社は・・・・・・」って書いている会社もありますよね。これは大半、広報IR担当者任せのケースが多いようです。
大事なのは、見た目が綺麗な冊子を作るのではなく、自分たちの想いをしっかり伝えることです。いろいろな部署が力を合わせて、この1冊を作っているのかどうかは、読んでいるうちに何となくわかります。

上杉   もちろん、いろいろな部署に原稿を起案してもらうケースもあるのですが、たとえば営業部門だと、明らかに取引先であるお客様を意識した書きぶりになります。でも、統合レポートは投資家向けの冊子ですから、私たちIR担当者がしっかり直させてもらいます。

伊井   他の部署の方からの協力は得やすいですか。

上杉   はい。いろいろな部署から、統合レポートに載せて欲しいというリクエストが来ます。毎年、各部署からいただく情報をもとに、今年はどれを載せようかなどと考え、ディスカッションまでさせていただけるのは、とても楽しいですし、より良い統合レポートを作っていくうえで重要だと思います。

伊井   本日はありがとうございました。
★当日の様子はこちらのアルバムからもご覧いただけます★