<10周年イベントレポート>企業との対話パネルディスカッション「長期投資で経済リターンと社会リターンを結びつける」


「長期投資で経済リターンと社会リターンを結びつける」
旭化成株式会社IR室室長 濱本太司氏
エーザイ株式会社IR部ディレクター 竹井孝志朗氏
東京エレクトロン株式会社IR室室長代理 八田浩一氏
コモンズ投信株式会社代表取締役社長 伊井哲朗
コモンズ投信株式会社シニアアナリスト 上野武昭
コモンズ投信株式会社シニアアナリスト 末山 仁



コモンズ投信 代表取締役社長&CIO 伊井哲朗
伊井  最初にこれまでの各社との対話のエピソードを交えてご紹介させてください。エーザイは、私たちが2009年1月にコモンズ30ファンドの運用を開始して、まだ投資金額が1000万円ぐらいしかなかった時に、コモンズ30塾へのご登壇をお願いしたら、「是非、伺います」とおっしゃって下さり、担当役員の方をはじめ、私たちのお客様と共に初めて企業との対話が実現できた会社でした。
旭化成は当時、16あった事業を9つに絞るのに、選択と集中でどのように事業を再建していくのか。それから、グローバルトップを目指すとはどういうことなのかを教えていただいたことを記憶しています。
東京エレクトロンは、長期投資を実行するに際して、半導体製造装置のように非常に大きな波がある会社は無理だと言われていましたが、私たちはその波を乗り越えてでも成長を続けられる強い会社ではないかと考えて投資しました。結果として現在、私たちの想像を超える成長を続けていらっしゃいます。
ところで皆さんはIR担当者ということで、国内外のさまざまな投資家と会っていると思うのですが、皆さんの目から見て長期投資家がどのように映っているのか、あるいは長期投資の意義や期待するところについて教えていただけますか。

旭化成株式会社IR室室長 濱本太司様
旭化成濱本様  私たちは長期の経営理念として、「世界の人びとの“いのち”と“くらし”に貢献する」ということを掲げております。この理念に基づいて、選択と集中を繰り返しながら事業を変化させてきました。そして、「昨日まで世界になかったものを。」をグループスローガンに、もともと長期目線の経営を行ってきました。
企業が成長するためには、ステークホルダーの理解と支持が必要です。投資家のタイプは多様ですが、長期目線での成長を目指している私どもとしては、とりわけ長期投資家からのご理解と共に、要所でご助言いただくことに期待しています。

エーザイ竹井様  この10年間、エーザイを取り巻く経営環境や株価の状況は、非常にアップダウンが大きいものでした。それでも温かく見守っていただけたことに感謝をしております。
また、厳しいご意見も頂きました。オムロンと共に参加させていただいた統合報告書について意見し合うワークショップでは、参加された個人投資家の皆様から、私自身が想定していた以上に厳しいご意見をいただきました。自分では「これでも良い」と思っていたのですが、やはり投資家の方々から意見をいただき、ブラッシュアップを図ることが大事だということに改めて気付かされました。
それ以来、機関投資家を中心に、統合報告書に関してご意見を伺うためのミーティングを定期的に開催しております。

東京エレクトロン株式会社IR室室長代理 八田浩一様
TEL八田様  半導体業界は非常にボラティリティが高い業界です。最近でこそ状況が改善し、徐々にボラティリティは下がってきましたが、過去を振り返ると、景気が良かった次の年は売上が一気に半分以下になって赤字に転落する、ということもありました。
そういう状況を理解して、長期保有して下さる投資家の方々の存在は非常にありがたいと思っています。常に右肩上がりの業界はありませんし、一時的に下がったとしても、それは次の成長に向けて投資するチャンスでもあります。だからこそ、厳しい局面でも一緒に乗り越えてくれる長期投資家の存在は、心強くもあります

伊井  私たちは長期投資を標榜し、ファンドを運用しているわけですが、それにはやはり受益者の皆さんのご協力が必要です。いくら私たちが長期投資をしたいと思っても、受益者の方々が短期の購入・解約を繰り返すと、資金の流出入が安定せず、結果的に長期投資が出来なくなるからです。
幸い私たちのファンドは、多くの方が、積立投資によって長期的に資産を託して下さっています。皆さんの資金がコモンズ投信を通じて、企業の長期的な付加価値を高める活動資金となり、成長の結果が果実となって受益者の元に還っていく、そしてまた投資する。そういうサイクルをしっかり回していきたいと思います。
さて、では次は、東京エレクトロン担当の末山さん、質問をお願いします。

コモンズ投信 末山仁
末山  これから5GやIoTが世の中の流れになり、データセンターもどんどん増えていくという状況の中で、半導体の微細化にも限界があるのではないかという声がよく聞こえてきます。本当に限界が来るのか、それはいつ来るのか興味は尽きませんが、半導体製造装置を作っているメーカーとして、このあたりをどう見ていらっしゃるのでしょうか。

TEL八田様  NAND(ナンド)フラッシュではすでに微細化が限界点に達しています。そこで今行われている進化としては、縦に進んでおります。縦にたくさん積むことによって、集積度を上げています。それが今、データセンターで使われているNANDフラッシュの実情です。
今後はDRAMやロジックデバイスにも微細化の限界が来るでしょう。ただ、これまで半導体は微細化だけで進化してきましたが、ここから先はNANDと同じように、違う方向に進むと考えております。例えば、人間の脳を模式した脳型コンピュータやその先に商用化されると言われている量子コンピュータは微細化ではなく、材料や構造の進化で実現されると思われます。
2045年にAIが人間の脳を超えるだろうと言われている「シンギュラリティ」に向かって進むでしょう。単に人間の脳を超えるだけではなく、人間ができないことをロボットにやってもらって、人間の生活を豊かにするような社会が来るのではないでしょうか。

伊井  これからの時代は車も家電も半導体という頭脳を持つようになっていきます。そういう状況では半導体の需要も用途もどんどん膨らんでいく、半導体は“産業のコメ”でありますのでこれからも長期で成長していくマーケットと考えています。では続いて上野さんから旭化成さんに質問をお願いします。

コモンズ投信 上野武昭
上野  旭化成は時代の変化に合わせて、先取りしてビジネスの重点を柔軟に変えてきているというイメージがあります。産業界全般に求められていることだと思いますが、業務改革や働き方改革に、御社ではITやデジタルをどのように活用していらっしゃるのですか。

旭化成濱本様  IT、デジタル革命をうまく活かし、業務改革、働き方改革、成長路線を描くのは必須です。足元では製造・開発の現場で優先的に取り組みを始めています。まず製造現場では、いわゆるIoTです。工程に各種センサーを取り付けて、そこから情報を収集し、工程全体のモニタリングおよび自動調整を実現しています。
また、開発の現場では、マテリアルズインフォマティクスといって、さまざまな素材を設計するに際して、さまざまな情報を活用しながらコンパウンドのレシピや触媒の開発に活かしています。また、各種特許や技術論文をビッグデータ解析して技術俯瞰マップを作り、次の開発、戦略に役立てるといった試みを行っています。

上野 これまではグーグルやアマゾンなどプラットフォーマーばかりが注目されてきましたが、これからはITを使う側がもっと注目されてくると考えています。

末山  エーザイさんに伺いたいのですが、認知症の新薬開発に挑戦されるなか、将来的に認知症は完治するのかどうか、仮に完治するとしたらいつなのかについて教えて下さい。あと、がん治療の新薬開発にも取り組んでいらっしゃいますが、がんも治る病気であるとお考えですか。

エーザイ株式会社IR部ディレクター 竹井孝志朗様
エーザイ竹井様  まずがんについては、国立がん研究センターが発表しているデータによると、10年間の相対生存率は平均で約60%に達しています。もちろん、がん腫によって高いケース、低いケースはあります。肝細胞がんやすい臓がんのように非常に生存率が低いものもありますが、すでにがんに対しては、一定の希望が持てる時代になっているのではないでしょうか。抗がん剤の開発は、製薬企業が最も力を入れており、まさに日進月歩です。いつになるのかをお約束はできませんが、全てのがんが治る時代は来ると私は信じています。
一方、認知症については、この15年間、アメリカでも全く新薬が開発されていない状況です。エーザイは、認知症の領域で2つの候補品について、臨床試験の最終段階であるフェーズⅢ試験を実施しています。エーザイが新薬開発に成功し、この状況を打開することができれば、認知症の治療がよくなる時代がより早く訪れるのではないかと考えています。逆にエーザイが失敗すれば、大勢の人が望んでいる時代の到来が、少なくとも5年は遅れるのではないでしょうか。多くの方々が希望を持てる時代になるよう、エーザイは今後も頑張っていきたいと思います。

伊井  20年前認知症の薬アリセプトが出されたとき、これで認知症の進行が遅くできる、いずれ治るのではないかということで世界が期待しました。日本の製薬メーカーがその領域に飛び出していったことをうれしく思いました。先日ひとつ新薬の開発を断念したとのニュースはありましたが、挑戦しないと成功はないのでどうぞがんばっていただきたいと思います。トップランナーとして業界を牽引していって欲しいと思います。
最後、長期というキーワードに関連して、持続性・サステナビリティについて考えを伺っていきたいと思います。

上野  これは化学メーカー全般に大きく関わってくることだと思うのですが、脱プラスティックや循環型社会について、化学メーカーでもある旭化成さんとしては、どう考えていらっしゃいますか。

旭化成濱本様  やはり化学メーカーとしては、環境に優しくという考え方は昔から持っています。そういうこともあり、再生繊維などのように天然由来の原料を使用するケースが増えています。
また昨今、海洋プラスティックの問題で、脱プラスティックの傾向が強まっていますが、一面的に捉えてプラスティックはすべてダメというような極論ではなく、もっと全般的に捉えて、プラスティックゴミをどう処理していくのかを考えていく必要があるでしょう。現に、プラスティックが人類にとって非常に便利なものであり、世界的に普及しているのも事実ですから、一企業ではなく、さまざまな業界、たくさんの国と共に取り組む必要があると考えています。
もちろん、メーカーとして3R(Reduce/Reuse/Recycle)として、製造過程で出る廃プラスティックを出来るだけ少なくする、出来ればリサイクルする、どうしてもリサイクルできないものについては、サーマルリサイクルといって、焼却をしながらその熱エネルギーを再利用するという方法を考えて目下、取り組んでいる最中です。

会場の様子
伊井  環境の問題は大きな問題で、コモンズ投信が企業の投資判断する際にも、そこのところの取組みはしっかり見させていただいています。これからの資産形成は、単なる経済的なリターンだけではなく、社会的なリターンとの総和が大事であることを先のセッションでもお伝えしましたが、持続可能な社会をつくることに多くの企業が取り組んでいけば、それは私たちが生活する社会にも直結していて、大きな社会的リターンとして返ってくるということが実感できるトークセッションとなりました。ありがとうございました。

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