教えて!未来予想図~自動車産業への想い~
製造業や小売の調査を中心にカバーしているシニアアナリストの上野さん。コロナ禍のリモートワークで通勤時間がなくなって、新聞や企業やバイサイドレポートを丁寧に読む時間を確保することができたそうです。すると日ごろから考えていた企業の未来を拓く3つの要素がしっかり整理されたとのこと。そして今回の企業決算をうけてその考えは確信に変わったそう。原稿をベースにしたインタビューで一段と熱がこもった「自動車産業の継続的な研究開発」について想いの丈を語ってもらいました。
解説 運用部シニアアナリスト 上野 武昭
聞き手 マーケティング部 横山 玲子
上野 今回は未来を拓く3つの要素として、人財を大切にすること、リスクへの早めの備え、継続的な研究開発を挙げて説明しました。
横山 上野さんのアナリストとしての視点を改めて整理した感じですね?
上野 そうです。すべて重要なことです。ちなみに3つ目に挙げた「継続的な研究開発」というのは製造業、特に自動車産業をみて日頃思っていることです。自動車に話を絞ると、日本の自動車業界は、世界的に強いポジションにいます。そして、中長期に向けて、企業価値を高めるため欠かせない、継続的な研究開発をやっています。しかし、株式市場での評価は低い状況にあります。
横山 どういうことですか?
上野 日本の自動車メーカーの株価は、PBR*(株価純資産倍率)でみると、トップ企業でさえ1倍を下回っています。これは、現在の株価が、企業の資産価値(解散価値)を下回っているということを意味します。業界によって、PBRの水準は異なりますが、今の株式市場では、デジタル関連を中心に成長力の高そうな企業が高い評価を受けています。日本の会社のなかでグローバルで競争力が高いのは、車を中心に多くは製造業です。グローバルでの競争力が高いということは、産業のすそ野も広くなり、多くの雇用も生み出すことができます。
横山 PBRが低いというのは何を意味しているのでしょう?
上野 PBR(株価純資産倍率)=ROE**(自己資本利益率)×PER***(株価収益率)という計算式から成り立っています。PBRの低い業種はROEが低いか、PERが低いということです。ROEが低いとは、資本を効率的に使って利益を出せていないということです。PERが低いとは、いろいろな理由がありますが、人気がないということが言えます。
横山 人気ですか。なぜ、人気がないのでしょうか。
上野 短期的な業績に魅力が乏しいことと、中長期での成長力に不透明感があるということだと思います。若者の車離れとよく言われますが、若い人で車を所有する人が少なくなったことや車業界全体として、将来のための設備投資や研究開発投資に資金が必要で短期的には利益が出にくい構造があります。中長期的には、自動運転の世界になれば、車の価格は大幅に高くなるのではないか(一般消費者が買うのか)、カーシェアリングになれば、車の販売台数が減るのでないか、など懸念を持つ人もいます。中長期に向けての懸念について、自動車産業の未来を丁寧に納得できる形で、投資家や世間に説明する情報発信力が自動車業界のトップに求められていると思われます。
横山 確かに。今実態が確立しているだけに未来を想像するのが難しい感じがします。
上野 中長期の姿に不透明感が強いと、株価のディスカウント要因になりかねません。
横山 明るい未来が想像できない業界に投資するのは避けたいですもんね。
上野 その通りかもしれません。ただ、明るい未来が想像できないわけではありません。見えにくい部分が多いので不安感のほうが強くなっているだけだと思います。
横山 重要な産業ですし、まだまだ伸びしろはありそうですよね。
上野 伸びしろは大きいと思います。今回の未来予想図でも書きましたが、日本の自動車メーカーの優れた環境技術で、新興国を中心に改善が遅れている大気汚染の改善に大きく貢献することができます。また、自動運転技術の発達は、EC物流、飲食のデリバリーなどへの進化にもつながっていきます。話は、初めに戻りますが、だから、中長期のための研究開発は重要なのです。
横山 なるほど。そんな苦境でも大きな投資して研究開発をやっているわけで、「そこを応援したい」というのがコモンズのスタンスということですね?
上野 私たちは長期投資先として、ホンダを組み入れています。自動車産業の将来は見えにくい部分があります。しかし、有望な産業だから米国の巨大IT企業などが関わろうとしてきています。ホンダは勝ち残っていける会社だと思っています。ホンダが持っている、見える価値、見えない価値を十分に生かしながら進化して欲しいと思います。
横山 日本企業はこの先どのように変わっていくのでしょうか?
上野 企業の本質は変わらないと思います。それぞれの会社にはやはり「人を大切にすること」とか「リスクへの備え」とか、それからやっぱり製造業なら「どんな時でも継続して研究開発を落とさない」こと。すぐには成果が出ないかもしれないけど、これは10年後、20年後に必ず戻ってくる。この部分を今こそ大切に見なきゃいけない気持ちになっています。企業側はそれをうまく伝えて欲しいですし、私たちもそこをお手伝いできたらと思っています。
横山 上野さんの製造業への愛がビシビシ伝わってきました!ありがとうございました!
*PBR(株価純資産倍率)今の株価が、その企業の1株当たり純資産の何倍まで買われているかを示す指標。1倍以下の水準では会社が保有する純資産の額より株価の方が安いことを示している。
**ROE(自己資本利益率)とは、自己資本(純資産)に対してどれだけの利益が生み出されたのかを示す指標。
***PER(株価収益率)今の株価が、その企業の将来の1株当たり利益の何倍まで買われているかを示す指標。将来への期待値や、人気の度合いを示す。
※文中に記載の内容は特定銘柄の売買などの推奨、または価格などの上昇や下落を示唆するものではありません。