教えて!未来予想図~2020年、人の居場所の変化~

 今日は2020年6月次レポートの掲載コラム「未来予想図」を「テレワークの普及によるオフィス市場の変化」というテーマで綴った背景について運用部アナリストの原嶋さんに聞きました!


解説 運用部アナリスト 原嶋 亮介

聞き手 マーケティング部 横山 玲子 


横山 今回はコロナと不動産ですね

原嶋 最近ニュースでオフィスを解約しました、とか面積を縮小しました、とかあるいは地方に移して完全テレワークにしました、みたいな話っていうのも結構出ています。
それがどこまで広がるかは正直わからないですけれども、その変化はすでに出ているし、この先オフィスの価値観が変わるのは間違いないだろうという思いで書いてみました。

横山 どんな風に変わってきていますか?

原嶋 特に渋谷に本社があるようなIT系の会社では、明確に「オフィススペースを減らします」という話をしています。
こうした会社の多くはテレワークできる仕事ということもあって、足元では渋谷エリアの空室率の高さが指摘されますが、これから先はまた戻ると思います。
今までの渋谷は空室がなかったので入りたくても入れない会社がいっぱいあって、そういう会社は、恵比寿や五反田や品川などの物件を探して入居していました。
そういう会社にとっては待ちに待った空室で、しかも自分たちが当初想定していたよりも面積が小さくてもいいとなると、渋谷に移転しようと考える可能性は高いと思います。

横山 そうまでして渋谷に…?

原嶋 渋谷はIT業界の会社にとって街として魅力的です。
自分たちが目標とするような企業もたくさんいて、流行の発信地という意味合いもあって渋谷という街にいる意味があります。そうして渋谷に移転する企業が出てくると、それらの企業が入居していたスぺースが空いていきます。具体的にどのエリアとは言いませんが、ある程度広い面積を確保するために選ばれているだけで、そこにいる意味は乏しいというようなエリアから、渋谷や、あとは丸の内・大手町に戻ってくるような流れが出てくるだろうと思っています。

横山 リモートワークも進んで、必要なオフィスサイズも変わりますよね。

原嶋 社員の人数分の机を並べたオフィスにはもうならないですよね。
人数の半分ぐらいの座席を用意しておいて、来た人は空いている好きな席でやってくださいねというフリーアドレスが一般的になるのではないかと考えています。そして、フリーアドレスが進むと必然的に起こるのがペーパーレスです。
私が以前、在籍していた会社でオフィスをフリーアドレスにした際にも、圧倒的にペーパーレスになりました。
キャビネットスペースって想像以上に場所を占領していてそれがいらなくなる分もオフィスの面積として減るので、オフィス面積縮小、フリーアドレス、ペーパーレスの流れはちょっと逆らえないかなという気がしています。

横山 ペーパーレスが進むことは社会全体にとってもよいですよね。

原嶋 一方で今後はオフィスに行く目的というのがかなり問われると思っています。
これまではとりあえず集まりましょうっていう感じだったと思いますが、これからは、会社に行くときには何をするのかがかなり重要になると思います。
少し前に、富士通がオフィスを半減するという報道がありましたが、これも、通勤での移動時間など、突き詰めて考えたら多分そんなに必要じゃなかったっていう議論があったのでしょう。
コロナだから半分テレワークでいいです、じゃなくて、オフィスに何をしに行くのかというそこの目的をしっかり明確にしないといけないと思います。

横山 オフィスの使い方とか位置付けが全く変わってきますよね。

原嶋 社員のコミュニケーションとか集まって何をするかってことを主眼にしたオフィスの作りに変えていきますっていうことですね。
オフィスってなくてもいいよねって話でもなく、目的や位置づけが変わってリニューアルするんだったらどういうオフィスがいいのか、と。

横山 開放的で自然と会話が生まれるオフィスがいいと思います!

原嶋 リモートワークだと効率が落ちるというアンケート結果が出ているなどリモートワークは難しいんじゃないかという意見もまだまだ根強いですが、そこはインフラとテクノロジーが進化するから、今はハードルが下がってきていると思います。例えばそのテレワークができない理由って何ですか?という質問の回答に「情報セキュリティ」というのがあります。
特にコールセンターなどの個人情報を扱う業務がそうだと思いますが、たとえばチューリッヒ保険会社でも在宅でもコールセンターの電話業務ができるようにしているという記事がちょうど今日(2020/7/6)の日経にも出ていました。

横山 コールセンターのリモート化は着手できているところがまだまだ少ないですよね

原嶋 同社はかなり初期の段階からコールセンター業務を在宅で実施していた会社だと思いますが、今その流れが広まってきて損保ジャパンとか三井住友海上も在宅でできるように体制を整えています。
結局インフラとかテクノロジーのところでセキュリティなどが強化されて実現したわけです。
そう思うとリモートワークの壁ってずっとあるわけではないという風には思っています。

横山 一言で「不動産」と言っても実際は市場規模の大きい業界ですよね。都市開発、オフィス開発、RIET、住宅、など投資という観点で今回のこの大きな変化がポジティブ、またはネガティブに働くところはどんなところですか。

原嶋 住宅には変化があるでしょうし、商業施設にはすごくネガティブな影響があるだろうと思っています。
住宅に関して言えば、仕事部屋が欲しいので郊外で家を建てる、という動きが結構あるという話をこの6月のハウスメーカーの月次報告などでも聞きました。
どれくらいそれが広まるのかはわからないですけど、そういうことを考える人も出てくるのは想像できます。
あと都市型商業施設と言われていた、場所で言うと銀座とか原宿とか代官山とかあと丸の内側にも一部ありますが、そういうところっていうのは基本的には賃料がすごく高いので今まで店舗内も密になるような作りだったのですが、これからはそういうところで人を集めて商売するっていうことがちょっと難しいですよね。

原嶋 もともと大型の商業施設って、郊外のショッピングセンターみたいなところに展開していたけれど、人口動態もあって地方や郊外でのビジネスが難しくなってきて、これからは都市型だ、といって、都心部をはじめとした駅近の立地にシフトしてきたのに、コロナでやっぱりそっちじゃなかったっていきなり言われても急には戻れない。これは非常に厳しいです。
REITに関して言えば、今までは総じて東京23区内の物件の比率は高ければ高いほど安心できるって言う話だったのがこれからは分散だと言われても急にそっちには行けないので、やはり厳しいです。

横山 「不動産」ですからね…ひょいっと手軽には動かせないですよね。

原嶋 反対に、ポジティブなところでは物流です。日本ビルファンドというオフィス型リートで、J-REITで最大の時価総額を誇る銘柄と、日本プロロジスリートという物流型リートの代表銘柄があるんですが、元々1年前までは時価総額が倍ぐらい離れていた(日本ビルファンドの方が大きかった)のが、一時的に日本プロロジスリートが日本ビルファンドを抜いてJ-REIT全体でも最も時価総額の大きい銘柄になりました。これが関係者にしてはとってはかなりセンセーショナルな出来事だったんじゃないかなと。

横山 物流は取扱量も大幅に増えていますね。お店で買い物をすることが本当に少なくなりました。

原嶋 配送業者がいて、ECにアクセスできる環境さえあれば不便なところでも買い物に困らないっていうことを考えられるようになったっていうのはかなり大きいと思います。別に都会で近くに商業施設ある必要もないよねっていうような認識が広まっていますよね。山奥でもAmazonさえつながっていれば欲しいものは全部手に入るんだからそこで住めるんじゃないかって、なんかそういう感覚ってあるのかなと。

横山 この流れがデジタルを活用したスマートシティ、さらには災害に強いまちづくりなどにつながっていくといいですね

原嶋 福島県会津若松市に会津大学という大学がありますが、ここはプログラミング教育に力を入れていて日本でもその領域では指折りの高い技術力とか技術者を輩出していると聞きます。また、会津若松市は地域活性に熱心で、少し前に地域通貨を導入しますというニュースも出ていました。もともとは不便さや過疎化や高齢化が進んでしまってコミュニティが維持できないというのが地域活性に取組むきっかけだったのでしょう。地域の生き残りをかけた取組みなのだと思います。そして、今後はそういうことに熱心なコミュニティには人が移っていくでしょう。これから地方に移住しようという人はインフラや教育が整備されているのはもちろん、こうした特色ある街づくりを熱心にやっているところに集まっていくと思うので、市町村単位で勝ち負けは出てくるし、災害についてはハザードマップが再認識されていると思います。

横山 今回のコロナ禍がもたらす「人の居場所の変化」で、原嶋さん個人の願望や期待はありますか?

原嶋 どこに移るかという際に、災害に備えるという発想を持っていることが重要だと思っています。南海トラフ地震も確実に発生すると考えておいたほうが良いですし、発生すれば避難する時間の余裕なく、大津波が日本を襲います。この辺りは内閣府のホームページに、南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループがまとめた詳細な報告がありますので、ご興味のある方はご確認ください。また、今回の九州、東北を襲っている水害もひどい状況です。災害があることを前提としてそれに備える、それはハザードマップをよく見て大丈夫そうなところに住むということだと思います。逆にそうしないと大変だという危機感があります。
コロナ禍で「人が場所を移る」ことをきっかけに、安全な場所に、テクノロジーが活かされスマートシティ化が進み、災害から命を守りつつ新しい暮らしが始まればいいと思っています。

横山 ありがとうございました!