<トークセッション>日立製作所「ダイバーシティを推進するには対話が大事」
<トークセッション>
■ 武内 和子 様 (日立製作所人財統括本部ダイバーシティ推進センタ部長代理)
■ 渋澤 健 (コモンズ投信会長)
渋澤 女性活躍支援からダイバーシティへとシフトしたきっかけは何だったのですか。
武内様 日立は以前、7000億円以上の多額の赤字を計上したことがありました。この時の反省によるところが大きいと思います。もう、かつてのようにモノを効率的に生産するだけでは、世界で戦うことができない。そこで勝ち残るためには多様性が必要だということから、ダイバーシティが経営戦略として掲げられ、現在の取組みにつながっているのです。
渋澤 その気づきは経営トップから?それとも現場から上がってきたのですか。
武内様 もちろん、ダイバーシティを経営戦略に位置付けたのは経営トップの判断です。ただ、それを促した一つの要因は、女性の存在だと思います。2000年以降、女性の採用が増えたため、ダイバーシティの考え方がメジャーになっていきました。かつて日本では女性社員は、子どもができたら会社を辞めるのが当たり前でしたが、そうではない。働いて成果を出したら、それは正当に評価されるべきことですし、それによって昇進もしてもらいたい。そこに男女の違い、国籍の違いは一切関係ありません。
渋澤 武内さんご自身は、働きながらお子様もいらっしゃいます。どういう点で苦労されましたか。
武内様 時間の制約を受けることです。その子どもも今は中学生なので、徐々に親離れしてきましたが、それでも夕飯の準備をしないわけにはいきません。だから、夕方には会社を出なければならず、その時は時間の制約を実感します。あとは、上司が良かれと思って気を回したことが、却って疎外感につながることがありました。たとえば「子育てが大変だろうから、仕事を減らしておいたよ」というケースですね。正直なところ、これを言われてしまうと、意欲が低下してしまいます。こんな状況が延々と続いたら、子育てが終わる頃には、仕事のスキルが無くなってしまいます。
渋澤 そのギャップをどうやって埋めれば良いのでしょう。
武内様 結局は対話だと思います。上司は部下に、期待していることをしっかり伝えるべきですし、逆に部下は子育てによる制約事項が何かを、きちんと上司に伝える必要があります。これは子育てだけではなく、介護についても言えることです。要するに、上司と部下の間で認識を合わせることが大事だと思います。
武内様 産休・育休前に、上司と一緒に参加する研修があります。で、育休に入ってからは、やはり会社との連絡が途切れると不安になるので、上司はメールでも電話でも良いので、常に連絡を取ることです。別に仕事の内容を話す必要はありません。「最近、どう?」というだけでも良いのです。それが育休に入っている社員の不安感を払しょくすることにつながります。あと、職場に復帰する時は面談シートに基づいて、上司と面談をします。ここで、仕事をするうえでどういう制約があるのかなど、認識を合わせる作業を行います。
渋澤 女性の活躍については、経営者レベルでは理解が進んでいると思いますが、どうご覧になられますか。
武内様 そうですね。バブル世代よりも若い人たちからすれば、女性が働くことに対する違和感は、ほぼゼロといっても良いでしょう。バブル世代よりも上の年齢層になると、逆に専業主婦が多いと思います。これは育休の整備が、昔は進んでいなかったからだと思います。育休制度を導入した企業は、1990年代からで、それまでは産休しか認められていませんでした。さすがに、産休だけで職場復帰となると、なかなか職場復帰は難しいと思います。産休だと、子どもが生まれてから2カ月間だけですからね。まだ首も座っていない子どもを誰かに預けて働けるかというと、それは私でも無理だったと思います。だから、バブル世代よりも上の年齢層の女性は、会社を辞めて専業主婦の道を選ばざるを得なかったのです。
渋澤 今の働き方改革については、労働時間を短くしようというのが中心になっていますが、どうお考えですか。
武内様 日本人の労働時間は総じて長いので、それを短くするのは良いことだと思います。あと、今は時間的制約がある人と、ない人の対立構造になっていると思うのですが、そうではなく、皆が労働時間を短くしてしまえば良いのです。そのなかで成果を出せば良い。だから、まずは労働時間を短くする。そして、日立では労働時間が短くなった分、何か他のことに使って欲しいと考えています。早く帰れるのだから、新しい経験にチャレンジするのは、人生を豊かなものにしてくれます。別に会社に還元しなくても良いのです。自分自身で次の転換につながるものを掴める何かをしてもらいたいと思います。
渋澤 ありがとうございました。
次のページ:<バズセッション>日立製作所「本人の意欲」と「上司の期待」