持続的な価値創造を支えるガバナンスが機能し始めた期待
おはようございます。渋澤です。この週末は、草食投資隊の北陸ツアーで福井、金沢、富山と巡回しましたが、セミナーの前の空き時間では桜を楽しむ花見散策もできて、セミナーを通じて旧知を温め大勢の新しいご縁にも恵まれた充実した時間を過ごすことができました。どうもありがとうございます。
さて、先週は衝撃的な報道がありました。セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長兼CEOとセブンイレブン・ジャパンの井阪隆一社長の対立です。
鈴木会長が指示した井阪社長の退任の人事案が社内の指名・報酬委員会では社外委員の反対により承認されなかったので、ホールディングスの取締役会にかけられました。その結果は、賛成7票、反対6票、白票2票で過半数の賛成が得られず否決されました。そして、その直後に伊藤会長は引退表明されます。
ここまでは、ある意味で常識の範囲内でコトが進んでいると思いましたが、急遽開かれた記者会見の内容にはびっくりしました。
井阪社長を続投に反対する理由の説明には具体性に欠けていた割には、退任の内示を素直に受け入れないという個人的な批判を側近の顧問まで使って、大企業の記者会見ではありえないところまで暴露しました。日経ビジネスオンラインの会見録の記事を一読され、ご自身でどうぞご判断くださいませ。
ただ、私は今回の騒動はコーポレート・ガバナンスが、良い意味で、機能し始めたことを示したと期待しています。恐らく、お墨付き用のカタチだけ整いておこうと設置した指名・報酬委員会ですが、この委員会が存在しなければ、井阪社長の退任人事案はそのまま取締役会を通ってしまったのではないでしょうか。
セブンイレブン・ジャパンの実質上の創業者で、日本のコンビニ業界の進化を世界一の水準に先導された鈴木会長は、超人的な功績を確かなものです。しかしながら、(ご本人は、そう思っていらっしゃらないようですが)ご自身の鶴の一声でコトが決まってしまう体制では、会社は創業者の器以上の存在にはなれません。
コモンズ30ファンドがセブン&アイ・ホールディングスに投資した理由は、同社の持続的な価値創造の高い可能性です。その投資判断において投資委員会で最も議論したところは鈴木会長の同社における影響です。ご本人が会社から去った場合、同社の価値創造は持続できるのか。
当時の投資委員会の結論はイエスでした。井阪社長の存在、そして、同社の人材の層が深いということを取引先などから評価の声が聞こえてきたことは、その判断への重要な材料になりました。
そういう意味では、鈴木会長がいずれ経営の立場から去るということは投資委員会の投資判断の想定内でしたが、今回のように表面化した会社トップのしこりは、もちろん想定できていませんでした。現在のしこりが、会社の危機感を高めて、むしろ会社のこれからの価値創造の角度を高めることができるのか。それとも、現在のしこりが価値創造の可能性を毀損して行くのか。投資委員会は新たな判断材料を仕入れ、最適な長期投資の判断に努めます。
私は鈴木会長や井阪社長と直接のご面識はありませんが、セブン&アイ・ホールディングスやセブンイレブン・ジャパンで複数のお知り合いの役員がいますので、同社の取締役会の前日に簡単なメッセージをお送りしました。今回の社長退任の人事案にはびっくりしており、サードポイントなど外国人投資家のみならず、我々のような長期投資家にとっても事態を消化するには時間がかかります、と。
このようなタイミングでメッセージをお送りした先からお返事を求めていた訳ではありません。しかし、こちらの考えを取締役会決議の前にタイムリーにお伝えすることは、コモンズ投信が推進する「対話」では大事であると思ったからです。この「対話」のスタンスを今後も忠実に務めますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。