<9周年イベントレポート>        魚谷社長×渋澤トークセッション     「ブランドを育てるということ」

<トークセッション>
魚谷雅彦氏(株式会社資生堂 代表取締役 執行役員社長 兼 CEO)
渋澤健(コモンズ投信会長)
「ブランドを育てるということ」



渋澤   売上1兆円達成、おめでとうございます。2014年に外部から社長に就任されたわけですが、資生堂に対する最初の印象はいかがでしたか。


魚谷さま   社長って偉いんだなというのが第一印象でしたね。
とにかくサポートするスタッフが凄い。社長就任が決まり、就任の挨拶をするわけですが、ある日、私のところに封筒が届いて、それを開けてみると、なかに挨拶文が入っていたのです。自分で書くから結構ですよと言いましたけどね。あと、出張も大名行列。
そういう過去の慣習を全部やめました。経営会議での役員の発言内容も、事前に部下が原稿を書いて、役員はそれを読み上げるという国会答弁ばりでしたが、それも止めてもらい、5分で良いので自分の言葉で発言してもらうようにしました。
あとは「階段ツアー」といって、社長に就任した時、本社の全フロアを挨拶して回りました。
これも止めてくれという意見はあったのですが、消費財の会社ですから、社長が社長室でふんぞり返っていてはダメだし、あれだけ大きな会社になると、社長が変わったことを知らない社員もいますからね。

渋澤   逆に、さすが140年の歴史を持つ会社だと思ったことはありますか。

魚谷さま   海外の競合関係にある会社に行って、経営者に会いたいと言うと会ってくれます。資生堂は海外でとても尊敬されているのです。海外で培った信用基盤は、とても素晴らしいものがあります。

渋澤   ブランドを育てるうえで大事なことは何ですか。

魚谷さま   良いものを作ればお客様は喜んでくれるというのは間違いです。もちろん商品開発は大事ですが、良いものを作れば後は何とかなる、ではなく、全体を管理したり、企画したりすることにも力を入れないと、ブランドは育ちません。


渋澤   美で世界を変えるということをおっしゃっていますが、資生堂にとっての美とは何ですか。

魚谷さま   資生堂は明治5年に福原有信が、西洋型の調剤薬局として銀座で創業しました。明治5年で、西洋式の医薬分業システムを確立したのです。
2代目の福原信三は薬学を学ぶため、コロンビア大学に留学しました。
この方が、株式会社資生堂の初代社長で、この時、会社が大きく発展しました。
こうした資生堂のルーツを見ると、和と洋を上手に組み合わせることで、新しい付加価値を生み出してきたことが分かります。
世界で認められるため、他のグローバル企業の真似をしてもダメだということです。
細かいところまで作り込む、日本ならではの商品、サービスを、海外のお客様に売ることができる、外国人スタッフがいるところに、資生堂の凄さを感じます。




渋澤   異なるものを組み合わせる力ですね。30年目線で考えた時、アナログとデジタルの領域は、どうなっていると思いますか。

魚谷さま   今の10代が40代になっているわけですよね。つまりスマホを使いこなしている世代が購買の中心層になります。
きっと、メーカーとお客様の立場が、大きく変わるかも知れませんね。
たとえば商品開発をするにしても、メーカー側がマーケティングを行って顧客ニーズを吸い上げ、売れそうな商品を開発するのではなく、お客様の側からメーカーにニーズを伝え、メーカーはそれを汲んで商品開発を行うという時代が、すぐそこまで来ているように思えます。
ただ、カウンセリングという形で、お客様と接する機会は、無くならないでしょう。


渋澤   組織が好奇心を失わず、活性化を続けていくうえで心がけていることは何ですか。

魚谷さま   社員は優秀でも、組織の風土で力を発揮できなくなっているケースは、結構あります。だから、私の仕事はしがらみでがんじがらめになっている社員を開放させること。
社員の心に、やる気を起させるための火を点けるのです。

そのためには、社員も役員も一丸となって、一緒にやる。
お客様の声を聞く。トライ・アンド・エラー・アンド・トライです。

そして、お客様にワクワクしていただく。でも、お客様にワクワクしてもらうためには、まず自分たちがワクワクしなければなりません。遊び心が大事です。


伊井   長期投資に対して、どのような考えをお持ちですか。

魚谷さま   透明性を持つこと。株主の方との対話が大事です。
何事も誠実に前向きにオープンに取り組んでいくことを、投資家の皆さんに、きちんと伝えるようにしています。
それが出来ると、今度は社内取締役と社外取締役との関係も上手く行くようになります。今期は業績が落ちるけれども、将来に禍根を残さないために、この問題を処理しようとか、大きな設備投資をしようとか、これまで幾度となく大胆な改革案を役員会で提案しましたが、全面支持でサポートしてくれます。
だから、とにかく経営に透明性を持たせて、株主の方との対話をきちんと行う。
それが資生堂の成長につながりますし、それを支えるのが、長期投資を行って下さる投資家の方々だと認識しています。


渋澤   本日はありがとうございました。
同時開催の"こどもトラストセミナー”にて
「資生堂を応援したい!」というこども投資家さんから
「しせいどうのしゃちょうさんへ」のお手紙のサプライズ!