<9周年イベントプレゼン抄訳> 株式会社資生堂 代表取締役 執行役員社長 兼 CEO魚谷 雅彦氏 「世界で勝てる日本発のグローバルビューティーカンパニーになるために」
<基調講演>株式会社資生堂 代表取締役 執行役員社長 兼 CEO魚谷 雅彦さま
「世界で勝てる日本発のグローバルビューティーカンパニーになるために」
こんにちは。魚谷です。
私は、資生堂の社長になる前、日本コカ・コーラの社長、会長を務めてきました。コカ・コーラでのキャリアは約20年ですね。
コカ・コーラという会社は、皆さんもご存じのように、グローバル企業です。そのため24時間働いているようなもので、その会長職を退いた時、家内は本当に喜びました。
その後、ブランドヴィジョンという会社を立ち上げて、そこで資生堂と出会い、ブランディングのお手伝いをしているうちに、「社長をお願いしたい」と言われました。
正直、驚きましたよ。140年に及ぶ資生堂の長い歴史のなかで、外部から社長を招聘したのは、初めてのことです。身が引き締まる思いでした。
メディアからは、「飲み物と化粧品は全く違う」などと言われたものですが、よくよく考えてみたら、私が商品を開発しているわけではないし、消費者の皆様に喜んでいただくという点では、コカ・コーラも資生堂も同じだと思ったのです。
社長に就任して、「資生堂を世界で戦える会社にする」というミッションを打ち立てました。
そして今、資生堂はグローバルで戦えるだけの力を持ち始めています。
会社の売上は、2017年度決算で1兆円に達しました。
資生堂にとっては20年来の悲願達成でした。
利益は創業以来最高です。従業員は全世界で4万5000人。
売上の57%が海外となっていますが、化粧品産業としては世界第5位なので、まだまだこれからです。
ちなみに、日本に次いで米国が2番目の売上でしたが、2017年に中国が2番目になりました。
資生堂の事業は化粧品だけではありません。
薬品事業や、資生堂パーラーでご存じかと思いますが、レストラン事業も展開しています。
実は、資生堂はレストラン事業の方が歴史は古く、化粧品はその後からなのです。
今から4、5年前、資生堂は構造的な問題を抱えていました。
国内事業は売上が減っており、シェアも落としていました。
それに対応してコスト削減など経営努力は行っていたものの、負のスパイラルに入っていました。
また海外事業に関していえば、先行投資した分の回収が出来ていませんでした。
この2つが大きな課題だったので、社長になった2014年に、とにかく現場の話を聞くことに専念しました。最初の100日で5000人の社員と対話しました。
資生堂には、ビューティーコンサルタントという店頭人員が1万人いるのですが、彼女たちは会社が抱えているさまざまな問題を、現場目線で理解しています。
営業担当も同様です。
問題は、それを声に出しにくい環境があることでした。
日本国内だけでなく海外も同様です。実際、中国法人のスタッフと車座になって話を聞くと、さまざまな問題点が浮かび上がってきました。
こうした問題点は、きちんと直視する必要があります。
そして、早急に手を打つ。そうしないと、後に禍根を残すことになります。
私の場合、外部から来た経営者だったので、組織の過去のしがらみに囚われることなく、改革を推し進められました。
6年かけて会社を良くしようと考え、最初の3年間で負の遺産を全て処理することにしました。たとえ利益を落とすことになったとしても、株主の理解を得たうえで断行する。他の役員の方からの賛同も得られ、速やかに処理が進みました。
それを終えてから、しっかり走る。2020年までに売上高1兆円、営業利益1000億円の目標を提示したところ、さすがにしり込みする声が出てきました。
その時点での売上は7500億円。
ただ、高みを目指さない限り、会社は良くなりません。
とにかく皆で力を合わせて頑張ろうと、一所懸命に走っていたら、2017年に売上1兆円を達成できました。やれば出来るだけの底力があるのです。
今後、資生堂はどうなるべきか。
社長に就任して3年が経ち、そんなことを自ら問い直しました。
世界で最も信頼される美の会社になろうと思います。
信頼はとても大事なものです。
株主、社員、お客様など、全ステークホルダーと信頼関係を構築し、ESGを追求してまいります。
化粧品会社にとっての社会的価値とは何か。
さまざまなCSR活動を展開し、原材料を調達する際にもフェアトレードであることに留意しています。
ただ、それ以上に本業そのものに社会的価値、社会問題を解決する力があるのではないか、というのが私の考えです。
そこで、笑顔を作ってもらうための表情プロジェクトを展開しています。
お年寄りの施設などで、おばあさんにお化粧をして差し上げると、皆、元気になります。人生100歳時代ですから、歳を取っても笑顔でいられるのは、とても大事なことだと思います。
あるいは、ガン患者の方が治療で外見が変わってしまった場合、それをメイクでカバーするためのアピアランスケアにも力を入れています。
先日、3か年計画を発表しました。
私たちの商品ラインは、高級品から普及品までありますが、世界に出ていくと、高級化粧品で戦うことになります。
ライバルはエスティローダーやロレアルです。スキンケア商品は収益性が高いので、ここを狙うのと同時に、メイクアップやフレグランスにも力を入れていきます。
さらにEコマース。現在、売上の5%ですが、中国では25%がEコマース経由での売上です。
先般、この分野ではアリババと提携しました。
アリババのCEOであるジャック・マーが、「母や妻も資生堂を使っているよ」と言ってくれたのは、ご愛敬ですね。
今、米国でも構造変化が起こっていて、若い世代はEコマースを積極的に活用しています。というのも、インスタグラムを使って自分のメイクアップを発信しているのです。ここにはもっと食い込んでいきたいので、その分野に強い米国のベンチャー企業を買収しました。
そして、最後はやっぱり人です。
これから3年間で、世界で戦える人材を育てていきます。そのため、留学制度を復活させました。
ダイバーシティの観点から、2020年までに女性管理職比率を40%に引き上げます。
英語の公用語化も発表し、1700人が今、英語のレッスンを受けています。当然、費用は会社負担です。
また人材育成のための投資だけでなく、設備投資にも力を入れていきます。
失われた20年の間、新しい設備を作っていないので、既存の設備が古くなっています。
それを新しくするのと同時に、那須と大阪に新しい工場を建てています。合計で3000億円の設備投資になります。
今後、8%の平均成長率を維持し、2020年には売上で1兆2000億円の基本計画、将来的には世界第5位から第3位内の化粧品会社になることを目指します。
ご清聴ありがとうございました。
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