<10周年イベントレポート> -講演抄録- 株式会社堀場製作所 代表取締役会長兼グループCEO 堀場厚氏「惚れられることで組織の求心力を高める」
2019年4月19日金曜日
<基調講演>堀場厚氏(株式会社堀場製作所 代表取締役会長兼グループCEO)
「惚れられることで組織の求心力を高める」
堀場製作所 代表取締役会長兼グループCEO 堀場厚氏 |
私、京都観光協会の副会長をしております。分析計や計測器を作っている堀場製作所が、なぜ観光なのでしょうか。
それは、私たちのビジネスがグローバルだからです。現在も売上の6割が海外で、1割が日本のお客様を通じて海外に出ていっているので、製品の7割が海外の市場へ展開しています。
ビジネスのグローバル化と共に、従業員の国際色も強まってきました。現在、従業員数は8000人近くになっていますが、そのうちの6割が、外国人従業員です。
そのような会社ですので、私をはじめとして、役員はほとんど毎月、海外を走り回っています。結果、堀場なら海外の実情、あるいは事情をよく知っているだろうということになり、京都観光協会の副会長のポストに白羽の矢が立ったというわけです。
京都はご存じのように、人口150万人の都市なのですが、その1割に相当する15万人が学生です。京都の上場企業は、ほとんど東京に本社を移していないという特徴を持っています。ところが、京都から新幹線で30分程度の距離にある大阪の上場企業は、大半が東京に拠点を移してしまいました。
なぜこれだけの違いがあるのでしょうか。
それは、京都が観光地であるのと同時に、前述したように学園都市だからです。総人口の1割が学生なので、優秀な学生を集めることが出来るというメリットもあります。結果、それが京都企業の高い競争力につながっています。
また、なぜ京都企業はグローバル化が進んだのか、ですが、最近でこそ新幹線で2時間の距離にある東京ですが、昔は8時間、あるいは10時間くらいかかりました。京都にとって東京は非常に遠い場所だったのです。
すると、東京を中心とした関東圏への営業、あるいは政府との折衝を行うのにわざわざ8時間、10時間をかけるくらいなら、ニューヨークやロサンゼルス、ロンドン、フランクフルト、パリに行くのも同じじゃないかということになり、多くの京都企業は海外にマーケットを求めました。これが、京都企業がグローバル化した一番の理由だと思います。
わが社の場合、6割いる外国人従業員のうちフランス人が12%を占めています。実数で申しますと1000人くらいです。しかも、1000人のうち80名近くが博士号を保有しています。
なぜ、これだけのフランス人をマネージできるのか、ということに驚かれることもあるのですが、私が思うに、京都人とフランス人は似た者同士なのではないか、ということです。
たとえば「よそ者に嫌われる」のは、その代表的な事例でしょう。
なぜ、よそ者に嫌われるかということですが。やはり自分たちの価値観、歴史、ベースにこだわり、それらを非常に大事にしているからです。だから、多少批判的なことを言われたとしても、あまり意見を変えません。
あるいは、人のまねをするのが嫌いで、常に一番でないと気が済みません。大きさよりも中身であり、本物であるかどうかが問われます。
一方、大都市圏の価値観は売上が大きい、従業員が多いなど、とにかく大きいことは良いことだという風潮が強く感じられます。
本物であるかどうか、の価値観が京都にしか通用しないものなのかということですが、決してそうではありません。
今、私たちの売上が2000億円を超えてきました。コモンズ投信は10年前にわが社に投資してくださったのですが、この時、私たちの会社は、リーマンショックの影響もあり、1400億円あった売上のうち400億円も落ち込みました。絶対に赤字必至です。でも赤字にならなかったのは、事業ポートフォリオがうまく分散されていたからです。
具体的には自動車、環境、医用、半導体、科学への分散です。2009年の時は、自動車と半導体がガタガタになったのですが、医用と科学が貢献してくれて、赤字にならずに済みました。
私どもの社是は、「おもしろおかしく」。英語だと「Joy and Fun」になるわけですが、その価値観に惚れてM&Aに応じて下さった海外企業はたくさんあります。20数年前からM&Aを行っていますが、フランスの会社2社、ドイツ2社、米国1社を買収してきました。
こうして外国人従業員の比率が6割まで増えたわけですが、みなさんの感覚で言うと、買収に対して、あまり良いイメージがないのではないでしょうか。それこそ札束で頬を引っ叩いてというイメージが思い浮かんでくる人もいると思いますが、私たちが買収した5つの海外企業は、先方から堀場製作所の傘下に入りたいといってきてくれました。企業文化を変えるには5-6年はかかるのに、先方から来てくれればM&Aの翌日からオペレーションに入ることができるのです。
大事なのは、「惚れられる」ことです。堀場で勤めたい、堀場の傘下でオペレーションしたいと思われることが大事なのです。つまり企業の大切さとは、財務諸表、損益計算書など目に見える数字で示せないものをどれだけ持っているかが勝負だと思います。
会社を買収する時、デューデリジェンスといって買収する会社の内容をチェックするのですが、これを私たちは全部自前でやっています。堀場の社員を私はホリバリアンと言っているのですが、ホリバリアンが現地に行き、現地の弁護士、公認会計士と一緒に買収予定の会社の現状を解析していきます。そして、その報告が私のところに上がってきたら、私がその会社を訪問し、マネージしている人たちと面談します。特に我々は製造業ですから、研究開発部門に綿密なヒアリングを行います。その時、彼らがどれだけのものを持っているのかを判断します。私の感覚で申し上げますと、数字で把握できる部分と、目に見えない財産の部分とで、半々くらいの比率で判断します。この「会社を見極める目」を重視しています。
堀場製作所は毎年140~150人の新卒社員が入社してきます。それと同時に、その半分近くの人材を、中途入社で採用しています。当然、新卒の社員は自社で育てていくわけです。一方で堀場で働きたい、この会社で社会に貢献するような仕事をしたいという優秀な才能を持った人たちを外部から集めることによって、今の堀場製作所は成り立っています。かつ、その3分の2近い従業員は外国人で、その3%程度は博士号を持っています。
こういう人たちが、ぜひ堀場でユニークな製品を開発し、世界一のブランドで勝負したいと考えています。そして、安いから買うのではなく、製品そのものに高い付加価値があるから買うのだというように、自社製品を高めていくことが極めて重要だと思います。
-対談- 堀場製作所堀場厚氏 × コモンズ投信会長渋澤健