<10周年イベントレポート>よりよい未来へ「想いを込めて使うお金」
2019年4月26日金曜日
<パネルディスカッション>
上杉英太氏(株式会社堀場製作所管理本部経営管理部IR担当副部長)
鬼丸昌也氏(認定NPO法人テラ・ルネッサンス理事/創始者)
深尾昌峰氏(全国コミュニティ財団協会会長)
伊井哲朗(コモンズ投信代表取締役社長CIO)
原嶋亮介(コモンズ投信運用部アナリスト)
コモンズ投信 伊井哲朗 |
上杉氏 私、2009年のリーマンショック直後からIRを担当していますので、その後の右肩上がりの中でIRを担当してきました。
10年前の状況は今と全く違っていて、ESGという言葉はありませんでしたし、仕事といえば、ひたすら業績について説明するだけでした。当時から見えない資産について注目していたのは、コモンズ投信くらいだったと思います。投資した企業と一緒に成長しようというコモンズ投信の考えに感銘を受けたことを覚えています。
伊井 次にNPOの立場ではどうかお話を伺いたいと思います。鬼丸さんは、お金の循環や、お金の持つ力について、どのようなお考えをお持ちですか?
鬼丸氏 テラ・ルネッサンスというNPO法人を運営しております。もともとは、立命館大学の4年生の時、テラ・ルネッサンスを1人で立ち上げました。当初はカンボジアの地雷除去の支援や、地雷被害者の生活を立て直すための支援活動をしていたのですが、今はアフリカ3カ国で、子供時代に兵士だった人たちの職業訓練や、識字教育、あとは起業の計画を立ててもらい、自分たちでビジネスをして、稼いだお金で自分たちの生活をより良くしていく、社会復帰の支援に取り組んでいます。年間予算が2億5千万円くらいで、大半は皆さんからの寄付や会費、国際機関などの助成金で組織を運営しています。
鬼丸昌也氏(テラ・ルネッサンス) |
紛争後の地域で活動すると、あることを感じることがあります。お金には変化を促進する性質がある、というのがそれです。良い方向に変化を促進することもあれば、悪い方向に変化を促進させることもあります。アフリカのコンゴ民主共和国では、コンゴ紛争によって540万人が亡くなり、5000人近い子供たちが兵士として戦っています。
紛争の原因は、レアメタルや貴金属、石油で、それを違法に開発するため、外国から大量の武器と資金がこの国に流れ込んできます。それによって多くの人たちが、傷ついています。これリアルで見た時、お金に変化を促進する性質がある以上、私たちはお金を使って、どういう社会を作るか、どういうものを子供たちに残すかという意思が、今一番必要だろうと思いました。
伊井 何に、どういう風にお金を使うのかによって、今も未来も変わっていく、ということですね。深尾さんはどうですか?
深尾氏 全国コミュニティ財団協会の会長を務めております深尾です。普段は龍谷大学で教員をしています。あと、社会的投資の金融会社も経営しています。
深尾昌峰氏(全国コミュニティ財団協会) |
このような仕組みを回していくことで、社会を良くしたいという志を持っている人たちが参加できる仕組みを、これからもつくっていきたいと思います。
伊井 私も自らの仕事の役割と責任として、投資家がどのような企業に投資するかというのも持続可能な未来をつくることに繋がっていると確信しているわけですけれど、企業のIR担当からみて投資家のESGに対する関心はどうですか。国内外の投資家の違い、あるいは短期的な視点の投資家と、長期的な視点の投資家の違いはありますか。
上杉英太氏(堀場製作所) |
堀場製作所は分析計測機器、なかでも自動車の排ガスや工場排水などを分析する環境計測機器が多いので、昔からSRIや社会貢献ファンドには注目していただいており、投資して下さっている投資家は、どちらかというと長期目線だったと思います。
事業内容がそういうものですから、堀場製作所には今もCSR部がないのです。環境計測機器の製造を生業にしているので、事業成長そのものが堀場製作所のCSR貢献であるという考え方です。
伊井 2月からコモンズ投信の運用チームに入った原嶋さんにも意見をもらいたいと思います。彼は企業でIRの仕事からコモンズ投信のアナリストへ転身というキャリアの持ち主です。
原嶋亮介(コモンズ投信運用部アナリスト) |
伊井 インベストメントチェーンの中で一番重要なのは、この会場にいらっしゃる皆さん、つまり資金の出し手(アセットオーナーといいます)です。皆さんの想いが出発点です。ここで実際にお金の出し手となる方のお話も聞いてみましょう。コモンズ投信のお仲間で本日のイベントでボランティアをして下さっている中小路さん。どういう気持ちでコモンズで投資そして寄付をしていらっしゃるのでしょうか。
中小路氏 コモンズ投信で資産運用をしていて、SEEDCapを受賞されたNPOに個人的にも寄付をさせていただいております。大事なのは、繋がることと共感だと思います。これを実感できれば、自然とコモンズ投信が目指している資金循環の輪が広がっていくのではないでしょうか。
中小路様 |
あとは、民間企業とNPOが実際に共感し繋がっていけば、もっと日本で投資も寄付も広がっていくのではないでしょうか。
伊井 今日のテーマは「投資は未来を信じる力」でしたが、最後にお三方、一言ずつお願いします。
上杉氏 今日のイベントには堀場製作所とシスメックスという2つの企業が参加していますが、両社とも「はかる」装置を世の中に提供しています。
私は、「はかる」ことがあらゆるイノベーションの始まりではないかと思います。例えば自動車の排ガスを測ることによって、よりクリーンなエンジンを開発するというイノベーションに繋がっていきます。最近は、電気自動車が主流になったら排ガスが出ないので、その時、堀場製作所はどうするのか?といったご質問をいただくこともありますが、その時は、電気自動車の効率的な開発をサポートするパートナーとなって社会に貢献していければと思います。
深尾氏 寄付の仲介という仕事をしていると、寄付したい人たちの想いは様々だということに気付きます。例えば、財務情報や成果に関して、きちんとした報告書がないと嫌だという方がいらっしゃる一方、報告など無くても頑張って取り組んでくれればそれで良いとおっしゃる方もいます。その点では、多様な選択肢を示せるようになることが大事だと思います。
あと、日本には寄付文化がないと言われていますが、それは違うと思うのです。実は「やり方がわからない」のではないでしょうか。たとえば京都などは、小学校を寄付で造ったという歴史もあるくらいで、町を自治してきたわけです。なので、共感をつなぎ、参加できる場を創ることが出来れば、自然のうちに人やお金が集まるのではないかと思います。
会場の様子 |
鬼丸氏 寄付も投資も、未来に繋ぐものなのだと思います。私の尊敬する方が、「人間は未来に恋する動物である。未来を想うことができる動物は、唯一人間だけなのだ」と言いました。だからこそ私たちはお金を通じて、もちろん100年後、200年後は生きていませんが、私たちの意思を未来の人々に渡すため、投資や寄付を行うのだと思います。ただ、深尾さんがおっしゃるようにやり方が分からないから、投資や寄付に対して消極的にならざるを得ないのが現実でしょう。その意味では、投資と寄付を繋いでいるコモンズ投信の役割は、とても大事だと思います。
伊井 最後、鬼丸さんに見事にまとめていただきました(笑)どうもありがとうございました。