教えて!未来予想図~隙間時間取り合いの世界で生き残りをかける電子書籍~
皆さんは電車での移動中、何をしていますか?まわりの人が何を見てるか観察してみると、最近は漫画、ファッション、食事、ゲームなどのサイトを見ている人が多いようです。従来はゲームをしている人が多かった印象ですが、だんだんゲームをしている人は少なくなってきているとのこと。ゲーム開発には、そして面白いゲームを作るには、たいへんな時間とお金がかかるそうで、そんな事情もあってか面白いゲームがなかなか出ずに、利用者も下火に。そんな中、電子書籍は、これまでの出版の古い習慣が崩れて、関連業界が力を入れ始めているそう。そして働き方改革で余暇の時間が増えていることも利用者の増加につながっているようです。隙間時間の取り合いの世界で生き残りをかける電子書籍、出版関連について運用部シニアアナリストの上野さんに教えてもらいました!
解説 運用部シニアアナリスト 上野 武昭
聞き手 マーケティング部 福本 美帆
福本 今回この分野に注目したのはなぜですか?
上野 やはりみなさん本が好きで、本のニーズは依然高いということだと思います。それから電子書籍というのはスマホを使うインターネットサービスの中でもまだ普及率が低いことです。スマホというのは成長産業のキーワードなんですよ。スマホやインターネットの普及率が7割のところ、電子書籍(電子コミックと文字もの)の無料と有料の配信コンテンツの利用者は合わせて4~5割、有料配信では2割弱です。つまりスマホを持っている人の2割~半分しか電子書籍や電子コミックを読んでいない。これはまだまだ拡大余地があるということです。
福本 なるほど。私は本は電子書籍派ですが、電子コミックはまだ読んでいません。
上野 今、紙の本のマーケット(出版)は15年来のマイナス成長です。人々の読書離れに加え、人口が減っているから本も売れませんよね。特に雑誌は、ネットに比べて広告価値もなく、情報もネットで代用できるからとても減っています。それに対して、紙の小説はそれほど減ってはいないです。
福本 確かに最近雑誌を見るのは美容院くらい。買うと結構高いですしね。ところで出版業界って古いビジネス慣習が残っているイメージがありますがどういう構造になっているんですか?
上野 もともと紙の出版業界の流れというのは、「集英社・講談社・小学館・角川といった出版社が本を作って(⇒)ニッパンやトウハンという取次業者に流し(⇒)本屋さんで販売する」というものでした。そして紙の本というのは在庫がすごく出るビジネスで、本屋さんの仕事は本を選んで並べて売る、というものんですが実は大量の返品作業が大変というのが現実なんです。段ボールに売れ残った本を詰めて返品する。ちなみに返品する在庫にかかるコストを負担するのは出版社です。本屋さんは在庫リスクはないんですが、本が売れなければ閉店となりますよね。
福本 うちの近所の本屋さんもついに閉店してしまいました。こういうのを見るとやはり紙からデジタルへのシフトは影響大きいですよね。
上野 もともと出版社は、電子書籍を推進すると紙の本の売上が減るからやりたくなかったんです。でもだんだん紙の本が売れなくなってきているという現実と、スマホが普及し、デジタルネイティブ世代が増えて電子書籍へのニーズも高まって、少しずつ本気で取り組むようになりました。そうしているうちに電子書籍の方もちゃんと儲かりだした。ということで徐々に電子書籍マーケットへの注力という方向に転換し始めています。
電子書籍のプレーヤーは、例えば、アマゾン、楽天、めちゃコミックのインフォコム、アメイジア、KADOKAWAなどたくさんあります。すでに電子書店は200~300社、電子書籍の出版社は1000~2000社もあって活発化しています。
福本 そんなにあるんですか!電子書籍、どんどん普及し始めているんですね。
上野 スマホやタブレットの普及、通信速度が速くなっていることなどもあって、ユーザーからすれば読みやすいものになってきたからでしょうね。電子書籍の8割がコミックで、これが全体を牽引しています。一方、文字もの(小説やビジネス書など)は数パーセントの成長です。コミックは1~数話が無料、あとは有料に持っていくというのがお決まりのパターンです。一巻あたり、一話あたり300円程度と安くて気楽に読める。また出版社からしても、単価は安いのですが在庫リスクがないことは大きなメリットです。
福本 単行本なら数百円~1000円以上しますもんね。この先どう広がっていくのですか?
上野 メディアミックス、つまりコミックから人気が出て映画化されたり、アニメや映像などになったら大成功です。また、電子書籍が売れたら、紙の本も売れる。IP(アイピー:知的財産ビジネス)というのですが、最終的にはそういう産業になります。オタク文化から広がるオタクノミクスですね。ガンダムやディズニーはIPをイメージしやすいと思います。そうやって広がる面白さがあります。
福本 出版ビジネスの中ではやっぱりコンテンツを持っている出版社が伸びているのですか?
上野 いえ、業界全体、出版社、取次、書店の全てが伸びていて、まさにWin-Winの関係です。出版社は集英社・講談社・小学館・KADOKAWAの大手4社28%のシェア売上で各社1000億円くらいでそこまで寡占化が進んでいません。いろんなプレーヤーがいます。そして、紙が主流だったころの出版業界は全体的に厳しかったけれど、今、電子書籍がこの業界を牽引しているんです。
例えば、直近四半期の営業利益で、
マンガアプリのアメイジア 2-3倍
電子書籍のインフォコム 60%超
電子取次のメディアドゥーHD 先行投資によって費用がかさみ、伸びは1桁台程度
大手出版のKADOKAWA 6-7倍
どこもまだまだ伸びると思います。
福本 知らない会社も多いですが、上場しているプレーヤーも多いのですか??
上野 そうですね。メディアドゥーHDは電子書籍取次の会社ですが、さっき言ったとおり、出版社も書店も多いので電子取次も必要とされています。KADOKAWAのように、出版も書店も持っていて、取次を必要としないところもありますね。
福本 利益配分は?
上野 紙の世界の利益配分は出版社が3割、製本・取次などが3割、作家と書店で4割といった感じでした。電子書籍では製本・取次が無くなり、ここの部分の利益が分けられるわけです。もともと作家は電子には流したくなかったのですが、この電子書籍の利益構造を考えれば、実入りが大きくなっていくし、まわりまわれば、ビジネスも成り立っていくのでだんだん許可、許諾を出してきている感じです。
福本 無名の人も世に出やすくなりましたよね。
上野 そうですね。紙だった頃は印刷、製本、物流、在庫そういうことにいちいちお金がかかるのでなかなかチャンスがなかった。でも電子書籍の場合はそういうコストがないので発信しやすい、つまり、コンテンツの数が違う。埋もれていた才能が発掘されやすい土壌になってきたとも言えますね。そして面白いことに電子媒体で読む人が増えれば紙で読む人も増えるんです。電車の中で紙の本を読んでいる人も一定数いますよね。結局、みんな本が好きなんだと思います。
福本 形は変わっても、人々が本を好きで読み続けていることがわかって、そしてその業界に新たなプレーヤーや展開も加わって出版業界の今後にワクワクしてきました!さっそく電子コミックも読んでみようと思います!
今日はどうもありがとうございました。