未来予想図 9:日本企業の”院政”とROE・株価の関係

未来予想図
9:日本企業の”院政”とROE・株価の関係
2017-08-04-FRI

東京証券取引所は8月2日、上場企業が相談役・顧問の役割を開示する制度を設けると発表しました。

具体的にはコーポレートガバナンスに関する報告書に記載欄を新設、元経営トップに限定して、業務内容や報酬の有無、常勤・非常勤といった勤務体系などを明らかにした上で、報酬総額や個人別の支給額の記述欄も設けるようです。いずれも開示は任意ですが、非開示の場合は投資家などから開示しない理由の説明が求められるかもしれません。
こうした流れは、会長や社長が退任後に相談役・顧問として現経営陣に影響力を及ぼすことは、実質的な「院政」として取締役会の役割を損なう可能性があるためです。米議決権行使助言大手のISSや有識者などは、こうした「院政」ともとられる制度に 否定的な意見を発信しています。

ところで、会長や社長が退任後に相談役・顧問に残ることは本当に「院制の温床」となり経営を混乱させる、言い換えれば、収益力や株価にネガティブなのでしょうか。

現段階では、取締役を兼務しない相談役・顧問の存在は対外的に開示されていないことが多く、実態を掴みにくくなっています。
全てを網羅することにはなりませんが、公開情報に基づいて全上場銘柄をスクリーニングするために、取締役を兼務する相談役・顧問が存在する企業 117社について、ROEと株価騰落率を調査(※)しました。

東証や金融庁だけでなく、世の中の有識者が口を揃えて否定的な見方をしている企業群ですから、さぞかしROE(株主資本利益率:収益力の指標)が低水準(=利益を稼いでいない)で、株価も上昇していないことでしょう。

結果は、まずROEですが、日本にコーポレートガバナンス・コードが導入された2015年度から時系列に見てみると、117社平均値は15年度6.9%、16年度6.8%であり、TOPIX(東証一部)は7.1%、8.4%なのでTOPIXに比べて0.2%~1.6%ポイント下回る結果となりました。
次に117社平均株価騰落率(期間:2015年3月末~2017年7月末)は+21%であり、TOPIXは+4%なので17%程度TOPIXを上回りました。数字の受け止め方は人によって異なりますが、個人的にはROEが極めて低いわけでなく、株価においてはむしろ好調でした。

「相談役・顧問は院制を敷くから<悪>で、そこに支払うお金は無駄」「専用の秘書やハイヤー、個室などは厚遇過ぎ」と一概に否定するだけでなく、世間から叩かれようとも会長や社長に退任後に相談役・顧問としていてもらおうとする企業側の意図を理解する姿勢がまず必要だと思います。確かに同制度の下、役割が一律に開示されることはポジティブですが、収益力向上と株価上昇を期待できなければ投資対象にはなり得ません。
「ザ・2020ビジョン」はESGファンドではありませんので、当ファンドの運用方針に当てはまり、かつ株価上昇を期待できるのであれば、前向きに投資を検討します。

※調査対象: 2016年6月~17年6月までに開催された株主総会において取締役選任議案を決議した企業3613社

シニアアナリスト兼ポートフォリオマネジャー
鎌田 聡