<講演抄録1>デンソー「統合レポートの構造を読み解く」

定期的に開催されているコモンズ30塾。今回(2017年11月23日開催)は株式会社デンソーの広報部担当課長の粕谷知恵子さんをお迎えし、統合レポートの注目点や、企業としてなぜ統合レポートを重視しているのか、といった点について話を伺いました。また後半では、コモンズ投信会長の渋沢健、デンソーの担当アナリストである上野武昭の3人で、統合レポートに関するディスカッションも行われました。
~∞~∞~∞~∞~∞~∞~∞~∞~∞~∞~∞~

株式会社デンソー
広報部担当課長 粕谷 知恵子 様
「統合レポートの構造を読み解く」

グローバルに展開するデンソーのビジネス

まず、当社の事業内容を簡単に紹介させていただきます。
設立は1949年です。トヨタ自動車の電装・ラジエーター部門から独立してできた会社で、間もなく設立70年を迎えます。
売上高は昨年度が4兆5000万円。従業員数は年々増加しており、現在は15万人を少し超えるくらいになっています。グループ会社も増えており、38カ国・地域に、226拠点あります。
デンソーというと、トヨタグループというイメージが強いと思います。確かにその通りですが、お客様別の売上高構成比をみると、トヨタグループは半分を切っており、トヨタグループ以外にも、グローバルに多くの自動車会社と取引しています。
製造・提供している製品は、自動車部品です。ただ、ドライバーの目に触れる部品は、ほとんど作っていません。見えるものはエアコンのパネルやメーターくらいです。それ以外の、目には見えないけれども、自動車を走らせるうえで重要な技術、製品を納めています。
また、売上高の1割程度は、自動車関連以外のものを作っています。たとえば、バーコードやQRコードの技術開発が代表的なところです。さらに最近では、ロボット開発や、藻の研究もしており、その研究過程で生まれた、藻を素材としたハンドクリームなども作っています。


デンソーファンをつくるための統合レポート

「統合報告書2017」でも触れていますが、今年10月の決算時に、2030年に向けての長期方針を発表しました。
今、自動車産業は100年に1度の大変革期を迎えています。自動車はとても便利な乗り物ですが、近年は地球温暖化をはじめとする環境問題や交通渋滞、自動車事故といったネガティブな側面もクローズアップされてきました。
その一方で、AIやIoT、コネクトなど、いろいろな技術が進歩しているのも事実で、弊社は2030年に向けて、新しい価値を創出して豊かな環境を広げ、誰もがこの社会で安全、快適かつ自由に移動できる社会の実現を目指し、世界中の1人でも多くの人に笑顔を届けたい、そしてこの想いを世界中のあらゆる人々に知っていただき、デンソーに共感いただきたい。そこで、「地球に、社会に、すべての人に、笑顔広がる未来を届けたい」という想いを、長期方針に込めて発表させていただきました。

当社は、昨年、初めて統合レポートを発表しました。今年で2年目ですから、歴史は浅いのですが、当初から経理部IR、経営企画部、広報部の3部署でワーキンググループを立ち上げ、満を持してスタートしています。統合レポートは自動車に例えると理解しやすいと考えています。まず財務情報。バランスシートや損益計算書は、自動車のメーターに相当します。これだけ走りました。燃費はこうでした。現在のスピードはこれくらいで、エンジンの回転数はこうです、といったことが示されています。対して非財務情報は、事業を支える基盤ですから、自動車の車体、フレームに該当します。それらに加えて統合レポートの流れでいくと、将来を見据えた情報も開示する必要があります。この会社は将来、どの方向に進んでいくのかという経営戦略に関する情報のことで、それを決めるのがドライバーです。
そして、エンジンは価値創造の原動力であり、天気は会社を取り巻く経営環境。未来は常に変わっていくので、天気予報さながらに予測を立てますし、実際に走る時はサイドミラーで競合相手がどういう状況にあるのかを確認するでしょう。
このように、自動車を走らせる時にはさまざまなものを総合的に組み合わせて、初めて目的に向かって進めるわけですが、統合レポートというのは、まさにそれと同じだと思います。かつては財務情報、非財務情報など、個別のパーツで見せていたものを、すべて総合的に見せるための開示資料なのです。クルマ購入にあたり、クルマのシャシだけ、あるいはメーターだけでは判断されることはないと思います。クルマ全体をみて、実際の走りを見て総合的に購入を決定するのではないでしょうか?
そして、それを作成する目的は、財務情報のように見える力と、非財務情報のような見えない力を伝えるコミュニケーションツールであり、それを通じて長期的にデンソーのファンをつくるためのものと考えています。

次ページにつづきます:ステークホルダーとの対話を重視
 | 1 | 2 | 3 | 次へ