未来予想図 10:仮想通貨の行く末は?
未来予想図10:仮想通貨の行く末は?
2017-09-07-THU
9月4日、中国当局は仮想通貨発行による資金調達「新規仮想通貨公開(ICO=イニシャル・コイン・オファリング)」を全面的に禁止したことを発表しました。
その結果、情報サイトのコインマーケットキャップによると5日午前10時54分時点で、ビットコインは前日比10%下落、イーサリアムは同19%下落、中国人の利用が多いとされるビットコインキャッシュは21%下落しました。仮想通貨全体の時価総額では1日で約2兆円も下落したことになります。仮想通貨の保有者には気の毒ですが、ここまでならばそれほど大きなニュースではありませんでした。
しかし、この衝撃は仮想通貨の世界に留まらず、現実の株式市場にも大きな影響を与えることになりました。仮想通貨の価格急落を受けて仮想通貨そのものにも不安が広がり、東証マザーズ市場に上場する仮想通貨関連銘柄が急落、それをきっかけに同市場全体に売りが広がる結果となりました。今後は仮想通貨を巡る規制当局の動向も気にしなければならないということです。
さて、私の個人的な意見ですが、現在世界で拡大しつつあるビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨(パブリックブロックチェーン)ですが、日本で普及する可能性は低いと考えています。
なぜならば、このタイプの仮想通貨を利用することで得られるメリットが日本人にとって現状それほど魅力的とは思えないからです。
一般に言われる仮想通貨の主なメリットは3つあります。
①中央銀行または政府の信用力に依存しないため、金融や財政政策などが任意にコントロールされて価値が変動させられることがない。
②世界のどこでも使用することができる。
③国際送金が安くて早い。
①について。
確かに開発途上国や一党独裁国家が発行する通貨を保有するよりも安心感があるかもしれませんが、日本円は米ドル、ユーロに続いて高い国家の信用力に裏付けされた通貨なので、仮想通貨にわざわざ信用力を求める必要性があるでしょうか。
②について。
自国以外で使用できることがメリットと言われても既にVISAやMasterのようなクレジットカードで実現できていますし、そもそも現地の店舗が仮想通貨を受け取ってくれるかどうかという疑問が残ります。
③について。
現行の国際送金に比べて格段に手数料が安く利便性も高いようです。特に法人や外国人労働者の仕送りなどの場合は、送金額や頻度次第で大いにメリットを享受できます。しかし大多数の日本国民において海外送金が求められる場面は限定的かもしれません。
現段階で、日本人が仮想通貨を保有する理由の過半は、ドル円相場の約10倍以上もある魅力的な値動きを背景とした、値上がり益を稼ぐための投機目的であると言っても過言ではありません。逆に、価格変動率が高いうちは、投機以外の目的を果たすことには向いていないとも言えます。
今後は、取引参加者の増加(取引形態の多様化)やデリバティブ商品の提供などを通じて、いくつかの仮想通貨が健全な金融商品としての地位を確立する可能性があります。引き続き仮想通貨の動向を注視し、ブロックチェーン技術を含めて調査を進めたいと思います。
シニアアナリスト兼ポートフォリオマネジャー
鎌田 聡